【ヒプノシスマイク】 Why don't you come My Division? -2nd- 【短編集】

▼ ページ10

「誰のだ。」

「え？」

「俺じゃなくて、誰を選んだって言うんだよ。」

状況を飲み込むより早く、質問責めにされる。

一郎は怒っているはずなのに、その声はどこか弱々しくて。



「……好きだ。」

聞き間違いかと思った。



「A、お前のことがずっと好きだった。」

しかし、聞き返すよりも早く、彼は丁寧に言葉を吐きだした。



「昔から。ずっと言おうって思ってて、でも俺、こういう時ばっか意気地無しでさ……」

「でも決心して。」

「だから今日、お前に来てもらった。」

一郎の真剣な眼差しは、少し潤んでいるように見えた。



「今更こんなこと言われても困るよな。悪ぃ。」

彼は悔しそうに唇を噛みしめる。

そんな顔が見てられなくて。



先に涙を零したのは私だった。

「何でお前が泣くんだよ……」

一郎が優しく涙を拭ってくれる。



「私も、ずっと好きだったから……！」

一郎の目が再び見開かれる。



「ごめん、さっきの全部嘘なの。」

「私が好きなのは、一郎だけだよ……」

抑えていた想いが涙と一緒に溢れて止まらない。



「マジかよ……」

「俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。」

彼は力なく笑う。



「これからもよろしくな。」

「うん……！」

一郎の唇が、優しく触れる。

初めてのキスは、微かに涙の味がした。



幸せな時間に浸っていると、不意に押し倒された体制のままだということを思い出した。

「そろそろ、どいて？」

「嫌だね。」



「エイプリルフールだからって、俺を騙してたことはいただけねぇな……」

彼は口の端をわずかに持ち上げ、妖しく笑った。



「お仕置き、しねぇとな。」

▼→←山田一郎 × April Fool

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す