２ー２ ページ19
『おばあちゃん』
このコタンに子供がいないわけではない
しかし彼女は私に自分の子供の影を見てしまったのだ
誰かの代わりなれないことを知っていても私はこの人から奪うことができなかった
「オタル コタヌン エア(ラ)パ ヤ？(小樽に行ったのかい？)」
一言一句を理解しているわけではないが「小樽」という言葉を聞くに私が昨日言った「小樽へ毛皮を売りに行く」話を持ち出しているのだろう
『ううん。え、と…オタル タネ オロワ クパイ(エ) ナ(小樽には今から行くよ)』
基本自給自足のアイヌの生活にはお金などあまりに必要はないのだが着物を着る生活に慣れない私は外国の服を着ている
ゆえに外国の服を買うために金がいるのだ
狩りの時激しく動くのでシャツとズボンをサスペンダーで留めその上にアイヌの民族衣装であるアットゥ(シ)アミ(プ)を羽織っている
「ピ(リ)カノ パイ(エ) ヤン(気をつけていきなさい)」
そろそろ行こう
身支度を始める私に声をかけるおばあちゃん
『エ！(うん！)』
タシロと呼ばれる山刀とメノコマキリという女用の小刀を持ち
売る用の毛皮などが入ったサラニ(プ)と言う背負い袋を背負い
防寒具である白い毛皮を羽織る
そして鹿革の靴のユ(ク)ケ(レ)を靴下の上から履いて立ち上がる
４月と言えど雪が全然残っているので
堅雪(かたゆき)用のかんじきであるチルンも持っていこう
かんじきとはーー
雪の中に足が深く入るのをさけるために、はきものの下につけるものである
『よし、行ってきます！』
エキ(厶)ネクワという山杖を持って後ろで見送るおばあちゃんに手を降った
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