2杯目:コロネーション(4) ページ7
途中で入った注文のカクテルを作りながら放たれた、彼が想いを乗せた、というカクテル言葉。年若い青年のいじらしいその行為に、知らずと口角が上げられる。
作り終わったカクテルをボーイに渡し終わるまで、手元に落としていた視線はこちらに向けられることはなかった。そのくせ、再び顔を上げて私に向けた視線は、どこか甘くそして熱烈に感じた。彼がどう思ってその言葉を私に送ったのかはわからない。それでも。
「…そうね。なら、何から教えようかしら」
その視線に負けた。いや、もっと言えば差し出されたカクテルの意味を教えられたその声に負けていたのかもしれないが。自分のことを話すなんて、久しぶりすぎてなんだか緊張してしまう。ましてや、今の私は素性を明け透けに語れるような道を生きていてはいないのに。
「そうですね…せっかくですから、名前をお聞きしても？」
「…そうか、私も貴方に名前を言っていなかったわね。私の名前はローザよ」
「ローザさん、ですね。貴女の立ち振る舞いに非常によく合う素敵なお名前です」
近づくものを傷つける棘を持つ、気高い花からもじられた私の名前は、彼にとって素敵な名前、らしい。
「あとは、何を知りたいのかしら？」
「……そうですね、えっと…その…」
「今ならなんでも答えてあげる。何が聞きたいの？ ソル」
彼は先程の真っ直ぐな視線と違い、こちらを見ることができない、とでも言うような視線の逸らし方をする。どれだけ聞きにくいことなのか、私にはわからない。だから、ゆっくりと彼を見つめてその口から言葉を紡がれるのを待つ。
「…ローザさんの好みの男性が、知りたいです」
「……へぇ？」
なるほど、確かにそれを聞くのはかなり勇気のいることだろう。これはどう受け取ればいいのだろうか。いやしかし、自分でなんでも教えると言った矢先断ることはできない。
正確にはしない、のだが。言ってしまったと言わんばかりに顔を赤らめたソルは、目線を逸らしながら嫌ならいいんですと呟く。
「そうね…掴みどころがなくて、ロマンチックな人がいいわ。例えば…そう、カクテル言葉なんかを知っていたら素敵ね」
「あとは、かっこいい人ね。私、結構面食いだから」
「……なるほど」
「他には…ああ、私背の高い男性が好きよ」
「そうですか。……ありがとうございます」
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作者名：蛸 | 作成日時：2020年11月21日 1時
