Cocktail poison (ページ28)

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7杯目:シャンディガフ(2) ページ28

パサリと外れた紅い髪の下から白銀の髪が覗き、照明の光に反射して煌めく。

「俺、覚えててください、って言ったのに」

　残念だなぁ、とこぼして青年は部屋を出る。キッチンに戻る途中にある鏡をふと見れば、数週間前彼女と出会った新人の客引きの青年がこちらを見る。

　―そう。最初から、すべてまやかしだった。

　新人の客引きとして彼女に近づいたのも好みの男になって彼女の心を奪ったのも、この青年。

　相棒の収集した情報をもとに、彼女の理想になって心を奪った。青年曰はく、ロマンチストはくそくらえだ。が、やり切ったので良しとしようと思っている。退屈そうにカバンから通信機を取り出し、依頼主に連絡を入れる。

「こちらスパイダー。任務達成、目標の死体の処理を頼む。メッセージは後で送る」
『了解。ご苦労だった』

　さっさと切れた通信に、軽く息をついて通信機をしまう。そうこうしているうちに……まあ、もっと前についてはいたのだが、キッチンに再び足を踏み入れる。

「さーて、もう一杯飲ーもう！」

　スッキリとした表情で、今にでも鼻歌を歌いだしそうなほどご機嫌な青年は、ジン、パルフェタムール、レモンジュース、シュガーシロップを取り出す。

　ローザの前では出さなかったシェーカーを出し、手順も気にすることなくレモンジュースを除いた材料をサッサと入れる。カラカラとなる音を聞きながら、シェーカーを振る。

　グラスにサファイアが注ぎ込まれ、それをくるくると回すと青色の宝石のような液体が泳ぐ。そこにレモンジュースをそっと入れる。サファイアがふわりとアメジストに変わっていくのを青年は眺めている。

　くるくると惰性で回っていた宝石がゆっくりと回転を止める。完成したのはバイオレットフィズ。

　それは皮肉にも……いや、意図的に彼がローザに初めて贈ったカクテルだった。
　青年は、それを持って先ほどまで目標の女と立っていたベランダに出る。誰もいない空間に向かって、グラスを少し傾ける。

「アンタの来世に乾杯ー！ってね」

　寝室の扉を見ながら、にこやかに、まるでそこに誰かがいるかのように青年はグラスを動かす。

　任務遂行の祝杯を。女の死を想って献杯を。