4杯目:アキダクト(3) ページ15
「お待たせしました。アキダクトでございます」
ぼんやりとしたまま青年を眺めていたら進んでいた思考は、ソルの凛とした声によって現実へとひき戻される。
目の前に置かれたのは、朧月のような淡いシトリン。アキダクト、と呼ばれたそのカクテルをゆっくりと喉に流し込む。
少し強いアルコールにくらりとする。感想をいくつか彼に話して、それから血液が回ると同時に酔いが回る。
いつまでそうしていたかも、いつ店を出たのかもわからない。
気がついたら、どこかのホテルの一室にいた。広いシャワー室で身体を清めて、バスローブを体に巻きつける。そんなことをしながら、ふと正気に戻った。
私は、ここに誰と来ているのだろうか。そもそも、どうしてこんなところに。
先程までの緩慢な動作とは違い、素早く身支度を済ませるとシャワー室を飛び出すように出る。少し歩いた先にある寝室のような、キングサイズのベッドの置かれた部屋。
そのベッドに腰を下ろしていたのは、まだ出会って二回目の青年……アレニエだった。
「アレニエ……」
「あ、ローザさん。……すみません。かなり酔われてしまっていたので、一度休憩しようと……」
場所は場所ですが、深い意味はありませんので、酔いが覚めたらすぐに出ましょうか。と促す彼から、自分も使ったのであろうシャンプーの匂いがした。たったそれだけ。
それだけのことだったのに、タガが外れた私にとってはあまりにも揺らぐ展開だった。申し訳なさそうにベッドに座る彼の肩をグッと押して、ベッドになだれ込む。
キョトンとした顔をしていた彼は、状況を理解するとともにパッと赤面する。
「ロ、ローザさん……」
困ったような青年は、白いシーツに白銀を散らし、それによく映える赤面を晒していた。知らず舌なめずりをした私は、その形のいい唇にそっと口付けた。ほんの少しカサついた、それでいてひどく柔らかいふにふにとした唇。
その感覚を楽しんでいたら、バッと身体を離された。それを少し口惜しく思うと同時に、青年の手が肩にかけられていることに気づく。ああ、今のは彼に離されたのか。年下ではあるが、しっかりとある男女の力の差に思わずキュンとしてしまう。
「残念。もう少し流されてくれてもいいじゃないの」
「……すみません。でも、一夜限りって、なんか寂しいじゃないですか」
「……一夜じゃなければいいのね？
じゃあアレニエ、私と付き合ってはくれないかしら」
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作者名：蛸 | 作成日時：2020年11月21日 1時
