Cocktail poison (ページ1)

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初入店:ブラッディ・メアリーページ1

国々が水面下で睨み合い牽制し合うことで均衡を保つ世界。しかし、それは各国の上層部や軍の者達のみの事情であり、何も知らぬ一般人は平和に生活を送っている。

　…これは、そんな世界での物語。

　中立国を公言し、膨大な貿易国として栄えるカティーノ王国。その国の都市のひとつであるデルエラの街は、今日も一興として煌びやかに、華々しい。日も落ちた時間だというのに、尽きない灯を爛々と輝かせる。
　
そんな明るい街を、1人の影が駆け抜けていく。

町の光から逃れる様に、薄暗い路地を歩き、肩を上下させながら、カツリ、カツリと足音を立てる。……もっとも、その音は耳をすまさないと聞こえないような、ほんの僅かな音であったが。
そんな僅かな音にも敏感になっているのだろうか、人影は小さく舌打ちをすると、靴を脱ぎ去り手に持って歩き始めた。

少し歩いたところで、影はふと足を止めて息を潜める。路地の向こう側では、何人かの影が何かを探すように辺りを見回している。
苛立ったような声とともに騒がしい足音が去っていく。

影は、去っていった足音と反対の方向へ歩みを進めた。そして、路地の奥にひとつの扉を見つける。

　アンティーク調の木製の扉にかけられた「OPEN」という面を掛けてある看板と、『BAR GOLD』の文字。
影は息を整え、靴を履き直してからそっと扉を開く。カラン、コロン、と扉につけてあったドアベルがなる。

「いらっしゃいませ」

　表通りの喧騒からかけ離れた、落ち着いた照明に漂うカクテルの香り。
影は雰囲気に酔ったようにフラフラとカウンター席に座る。その向こう側に立っていた女性の店員がグラスを拭き終えてから「ご希望のカクテルはございますか？」と問いかけた。

影は、ひとつ小さく息をついてから答えた。
「……ブラッディ・メアリーをお願いできるかしら？」

これが、その陰ーローザという女の初めての入店となった。