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「まぁ落ち着け。いや、これから言う内容は落ち着けるものでもないか……ふむ、そうだな。まず隣を失礼しよう、話はそれからだ」
彼は何故か柔らかく微笑むと、言った通り隣に座り、一つ一つ丁寧に話し始めた。
親が子供に絵本の読み聞かせをするようなテンポだ。私を刺激しないというねらいもあったのだろう、私は比較的落ち着いて彼の話を聞くことができた。
「あいつは今、層岩にいる。あれは非常に危険な場所でな……魈も生きて帰って来れるか分からない状態だ。
「恋仲であれば、今すぐにでも迎えに行ってやりたい所だろう。しかしそれも難しい。まず、今の魈に会うこと自体が困難だからだ。
「だから、今のお前には……俺と共に魈を待っていてほしい。
「……これが、魈からお前への言伝だ。暫く俺と行動をしよう、A」
「……それが、魈様の望みなら」
待たされるのか。私は彼に。戻ってくる確証もない愛しい人を、いつまでも待ち続けないといけないのか。
契約など、そこには無い。戻ってくるという契約ではなく、待っていてくれというただの言伝。あまりにも不確定な彼からの"お願い"に、キリキリと胸が締め付けられる。
もしかしたら、もう会えないかもしれない。
そう思うと、じわりと涙が込み上げてきた。いけない、人前で泣くなんてはしたない。今は優しく慰めてくれる魈様だっていないのに。
「そうだ、申し遅れていた。俺の名は鍾離、好きに呼んでくれ。雨も降ってきたことだ、帰るぞ」
そう言って、鍾離と名乗ったその人は私の手を引いて屋内まで案内してくれた。そこがどこかなんて、泣いていたから確認していないけれど、魈様が言伝を任せた人が案内してくれた場所なら大丈夫だろうと安心することができた。
鍾離様と知り合って、数日経った。虚空のような時間を、鍾離様と会話をすることで消費する毎日。
時間の感覚が無くなってきて、起きてから確認した時刻は午前11時半。あまりにも寝すぎたな。ゆっくりと体を起こしながら、鍾離様に声をかけようとして、
──かけようとして、目を疑った。
いないんだが? は? どこにいったんだ? 流石に焦る。言伝ではあれど、鍾離様と行動せねばならないのだが? いや、こんな時間まで寝ていた私も悪いか。とりあえず、姿の見えない鍾離様に土下座をしてから街に繰り出す。
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