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「バルバトスは何年も生きている。それは気が遠くなるほどの時間。人間が生を全うする時間は彼にとっては刹那のよう。だからこそ、彼は恋愛などという刹那の感情に振り回される行為とは無縁だった。
「そんな中、ふと彼の目を引く少女がいた。少女は悠久の時を経ても尚受け継がれていく書物に興味を惹かれていた。そうして、成長するにつれて吟遊詩人の歌にも惹かれていった。バルバトスは刹那を生きる少女に初めて惹かれたのだ。
「バルバトスは少女に問いかけた。"どうして歌が好きなの？"
「少女は答えた。"長生きできてるみたいで楽しいから好きなの！ だから私、あなたの歌も大好きよ"
「バルバトスはそこで初めて、恋を自覚した。刹那の時の流れの中で、悠久を味わう彼女に。彼女こそが、モンドに相応しい"自由"であると。自由の神は、自由に時間を駆け巡る少女に恋をした。
「……そして今、バルバトスはその少女に歌を捧げている」
ウェンティは言葉を切ると、閉じた瞼をゆっくりと開け、その不思議な色の瞳に私を閉じ込めた。
ささやかな太陽の光を受けた彼は神秘的で、今にも背から純白の羽が生えてきそうだ。マシュマロのように甘く柔らかな微笑みを、私は初めて見た。
ウェンティは、あたかも自身がバルバトスであるかのように振舞っている。彼はウェンティで、バルバトスではないはずなのに。
「……なるほど。バルバトスの恋の物語。面白いな、これは売れるぞ」
いつもと違う彼の雰囲気に圧倒され、私は月並みで面白くもない感想しか出てこなかった。
私の感想には目もくれず、彼はハープを弾きつづけながら、言葉を紡ぐ。
……子供に言い聞かせるみたいに。
「バルバトスはね、こんなに一生懸命がんばって想いを伝えても、少女には届かないって思ってるんだ。叶わない恋だって。神様と人間が恋をするなんて、無理な話だって……。
A、君はどう思う？」
「……私、か」
突然の問いかけに、私は一瞬固まったが……直ぐに思考を動かした。
どう、と聞かれても。神の目も持たないただの作家に何がわかるのだろう……まぁどう回答しようと自由か。ここは下手な発言をして命を落とすような国ではない。
「……自由なのではないか。ここは自由の国だろう。なら、恋愛の形も自由であるべきだ。相手が人間であろうと神であろうと、愛し合っているのであれば……。それで、いいんじゃないのか」
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