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「俺は、彼女との契約を果たしに来た。これは君のお婆さんと俺が結んだうちの契約のひとつであり、彼女が最も大切にしてほしいと言っていたものだ」
「婆さんと……鍾離殿が、ですか?」
契約を果たすほど、仲が良かったのだろうか。少なくとも私は、婆さんと鍾離殿が会話しているところを見たことがない。
首を傾げていると、鍾離殿は私の前に座って、優しく微笑んだ。
「君のお婆さん……
鍾離殿は、昔話を聞かせるように優しく語り始めた。とても久しぶりに、婆さんの名前を呼ぶ人に出会った。こんなにも懐かしげに、何度も呼んだ名前のように言う人は、鍾離殿が初めてだった。
「だから、彼女は俺と、A殿に関しての契約をいくつか交わした。内容は単純なもので、バレないように見守っていてほしいとか、時折孫娘の話を聞いてほしいとか、対価が必要ないほどに些細なものばかりだった」
「……なぜ、鍾離殿はそれを引き受けたのですか」
改めて祖母の優しさに触れた気がした。私の知らないところで、そんな契約が交わされていたなんて……知らなかった。私は思っていたよりも、婆さんに愛されていたのか。
「彼女には魔神戦争でひどく世話になったからな。そもそも、本来なら彼女との契約は戦争が収束した直後にするつもりだったんだ」
魔神戦争……それなら、婆さんの昔話で聞いた事がある。多くの仙人と、半仙と……それから岩王帝君と共に戦ったと。誇らしげに話していた。それが何故、鍾離殿の口から?
「……鍾離殿、申し訳ないのですが、契約内容は交わした本人たちの間でのみ開示されるものでは……というか、魔神戦争に参加された様な口ぶりですが……?」
「あぁ、その答えこそが契約だからだ」
鍾離殿はもう一度微笑んだ。酷くやさしげだが、どこか哀愁が漂う。言いたくなかったとでも言いたげなその雰囲気に、私はどこか罪悪感さえ覚えてしまう。
口から出そうになった「言わなくてもいいです」よりも先に、彼から言葉が出た。
「俺は、岩王帝君だ」
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