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うん、なぜ忘れていたのだろうな。私もよくわからん。なにか術をかけられていたのでは無いだろうか、と思考する。しかし未だに何も思い出せない。
「……魈様、私、記憶力は良い方なのですが」
「あぁ、そうだな。貴様は賢い童だった」
「なぜこの契約と、貴方への思いを忘れていたのかが腑に落ちないのですが」
「そこが気になるか? もう何百年の前のことであれば、忘れてしまうのも無理もないだろう」
でも魈様は覚えていただろう。その違いがよく分からない……。私はさらに首を傾げる羽目になった。これでは振り出しに戻ったも同然だ。
私がうんうん唸っていると、魈様が鼻でふっと笑った。笑うな。
「記憶に靄をかける術のことは知っているか?」
「あぁ……どなたかが好きそうな、都合の良さそうな術のことですね。覚えています」
「それを我が貴様に使った」
何故!? 危うく掴みかかりそうになった。ならないわけが無いだろう。人の記憶を勝手に忘れさせておいて、一体何がしたいんだ……いや、待てよ。
先程の契約……私が忘れたら、などとほざいていたな。
「魈様、もしかして私を仙境へ戻すおつもりですか!?」
「……ふん、察しが悪いやつめ。昔から我の感情に対して鈍感であったな、変わっていなくて結構」
「今は昔話をしている最中ではないでしょう! 私にはやるべき仕事が沢山残っています故、仙境に戻ることは……っん!?」
2度目の口付け。此度は長めだ。なぜ私がこんな目に遭わねばならないのか……。魈様が満足気にしている理由も、仙境に戻そうとする理由もわからない。納得しないで俗世から離れるのは勘弁願いたいのだが。
魈様は私から離れると、少し怒ったような表情を見せた。そして私の頬に触れる。
「我は貴様を手中におさめたいだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。こんな面倒な術を使ったのも、確実に貴様を我のものにするためだ」
「……何故、でしょう」
聞き返せば、彼ははぁとため息をついた。すみませんね鈍感で。どうも人の気持ちを察するのが苦手なようでして。
だから友人は少ないのだが。
「Aが好きだからだ」
……? …………。
何を言われたのか理解できなかった。それも一瞬だったが。
好き。魈様が。私を。初恋の人が、私のことを、好いていてくれている。
これが……奇跡か……?
「ありがとうございます、魈様……」
「返事は」
「っ……。お慕い申しております、魈様」
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