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結局、私は押しに押され、1000モラで望舒旅館に泊まることになった。破格……。
そして何故か魈様も同室。彼が同室なら1人500モラということだ。訳が分からん、望舒旅館……。
私が1人唖然としていると、魈様が話しかけてきた。
「それにしても、成長したな。あの時は我の膝くらいしか背丈がなかったくせに」
「はい、あれはもう何百年と前のことですから。私もすっかり、人間の大人になりました」
「ふん……人間社会に溶け込むのは構わないが、我との契約を忘れたわけじゃあるまいな?」
……あ。契約。
魈様から言われて初めて思い出した。あれ、おかしい。私は記憶力が悪い方では無かったはずなのだが……。
なにかしていたな……あれはなんだったか。ハッキリ言うと覚えてない。なんかこう、ニュアンスは思い出せるのだが。
答えられないでいると魈様がため息をつかれた。すみません。
「覚えていないとは不敬な。一度罰を受けるべきだな」
「滅相もございません……どんな罰もお受け致します……」
私が体を小さくして縮こまりながらそう言うと、魈様は何故か愉快そうに微笑んだ。何故? 怖いのだが。
そして、彼は私の頬に触れ、触れるだけの口付けを交わした。……口付け!? 理解ができない。されたことの理解はしてるが、なぜその行為に至ったのかが理解できない。
今なら人生で1番でかい声が出せる自信がある。
「……魈様?」
「覚えていないのなら教えてやろう。我と貴様が結んだ唯一の契約だ」
魈様はそう言って、私の前に立つ。部屋を照らす灯りに照らされて、私に影が伸びた。
彼は人差し指を私の唇に当てた。それになんの意味があるか分からないが、されるがままにする。別に嫌ではないし。
「『Aが契約を忘れたら、降魔大聖が口付けを交わす。その時、俗世に添い遂げし者がお互いにいない場合は、Aを仙境に戻し、降魔大聖の伴侶とする』」
「……は、えと、あの……」
「この契約、忘れていたな?」
うわ……。過去の自分にドン引きした。確かに魈様に面倒を見ていただいていた頃の私は、魈様が全てで……初恋の人だというのも思い出した。初恋を忘れるほど馬鹿ではない。
しかし、この契約まで忘れていたとは。口は悪いが最悪である。
何故なら、私には恋人も婚約者も旦那もいない。それに決定的なのは、魈様を前に胸が高鳴っているということだ。
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