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降谷零は夢を見た。随分と懐かしい夢だった。今からおよそ10年前。今よりも随分忙しく、トリプルフェイスなど、よくよく考えれば随分と荒技をこなしていたと、苦笑いをこぼしてしまうあの日の温かい夢だった。そんな夢を見たからか、ついつい仕事に身が入ってしまい、風見裕也に休憩を取れと職場から追い出されてしまったのが、つい先ほどのことである。
組織が壊滅して、安室透とバーボン。男は同時に2つの名を失い、大きな名誉を受け取った。あれよあれよと昇格だのお見合いだのそんな話が持ち上がり、随分と慌ただしく目まぐるしく時間が進んで、気付いた時には数年の月日が流れてしまった。それでもあの忙しかった日々が、10年よりも長く感じるのは年か、それとも別の何かか。それを考えることはどうしても無下に思えた。
過ぎ去った時を思い出していればついつい足が向かう先が見える。無意識のうちに足を運んでいたその場所には、もう馴染みのあった探偵事務所は無くなっていた。眠ったように謎を解き明かす名探偵はもういなく、別居中だった弁護士とまた同棲を始めたと聞く。もちろん、あの時の小さな小さな名探偵も転校という形で姿を消してしまい、それと並行して一度は姿を消したと言われていた高校生探偵が表舞台に帰ってきた。
その彼も、今やあの時の自分に近い年齢だ。
音もなく、降谷は喫茶店をガラス越しに見つめた。ポアロと書かれたシックな喫茶店はなく、あるのは高校生やOLの好きそうな小洒落たカフェ。それでもカウンターの位置やトイレの位置は変わらない。寂しさと同時にどこか安堵を覚えた降谷はそろそろいいだろうと机に置かれていた書類を頭に浮かべ、身を翻す。その時、カフェのカウンターの奥に懐かしい制服を着た一人の少女が見えた。
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作者名:stella | 作成日時:2019年3月10日 20時