世界の果て、君のユートピア。【爆豪勝己】 (ページ10)

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10話ページ10

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昨日、3年ぶりにAが目を覚ました。

医者はまるで奇跡だと言った。俺もまだ夢見心地でいる。

ただ、Aはちゃんとその目を開いて、立ち上がることはまだ出来なくても、掠れた声で俺の名前を呼んでくれる。
今はまだそれで十分だ。

『…かっこよくなったね、かっちゃん』

Aの中での俺は、3年前で止まっている。
3年後の世界に突然連れてこられた様なものなのに、Aは取り乱したりはしなかった。

自分の髪が伸びたりだとか、母親が少しやせ細ったとか、それを彼女は不思議そうに語った。

｢…3年も経ったからな｣

『そうだね、3年も』

中学3年のときに事故にあい、その3年後に目を覚ます。それは彼女の青春時代を丸ごと奪うのを意味していた。

『ずっとね、夢をみてた』

｢夢？｣

『そう…、そこには誰もいないの
お母さんも、出久も、…かっちゃんも

ただ海の上を歩くの』

窓から風が吹く。
少しだけ潮の匂いがした気がした。

『でも、…すっごく心地よくて、
1人なのに、ひとりじゃない気がして』

『だから、全然寂しくなんかなかったよ』

ああよかった。
彼女が悲しい思いをしなくて。痛い思いをしていなくて。

俺はずっと、こいつは今も苦しんでもがいて、早く助けたい、一刻も早くその地獄から引き上げたいと思って3年間を過ごした。

だから、よかった。Aが眠っている間、そんなに幸せな気分でいれたのなら、こんなにも嬉しいことはなかった。

『…泣いてるの？』

｢は、｣

『……かっちゃん、』

｢ち、げぇ、これは、っクソ｣

なぜ泣いているのか本当に分からなかった。
安堵なのか、嬉しいからなのか、わかるのはただ悲しみの涙でないことだけだった。

Aはその管に繋がれた腕で俺を抱きしめた。酷く温かかった。

『ありがとう、かっちゃん
私のこと、ずっと待っててくれて』

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