ふりむかせたい 2 【飴村乱数】【ヒプノシスマイク】 (ページ29)

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七十六話律儀なサラリーマン(訂正) ページ29

あの火事の直後、私のスマホには独歩さんの連絡が来て、新宿の町で独歩さんと再会の約束をした。

何でも、「一二三を助けてくれたお礼がしたい」とのこと。

「いやいや、わわわわ私はそんなものをもらうつもりで助けた訳じゃないですよ(汗)」

しかし独歩さんは「イヤ駄目です！！」と食い下がらず。

寂雷先生に電話番号を聞いてまで……独歩さんは
思ったより頑固らしい。

それならばありがたく気持ちを受け取ろう、と
私は承諾をしたのだった。

夕方の新宿の駅で待つこと数分－－－－
駅の壁に寄りかかっていると、「あのっ」
と声が振りかかった。

独歩「お、ゼハッ……おまたせいたしまし、た。ハァッ」

「ど、独歩さん！」

そこには肩を上下にして息をきらす独歩さんがいた。

「どっ、ど独歩さん…、なんか、お疲れのようですけど…どうしたんですか？」

独歩「あ、ぇ、俺…っ、ハァッ…ですか？」

咳き込みながら彼は答えるので、背中をさすってやる。

落ち着いてからで良いですよ、と笑うと、独歩さんは一言謝ったのだった。

独歩「俺、さっき仕事終わったんで…Aさんに遅れたら申し訳なくて走ってきたんです…。」

「仕事？独歩さん休日なのに？」

私が首をかしげて言うと、彼は苦笑いを返した。

独歩「俺のとこは休日出勤なんて当たり前ですよ……。大体今日は、休みを取っておいたのに、あのハゲ課長が……」

そうして、ぶつぶつと呪詛のように独歩さんは口から恨み言を発する。

なるほど……これが社畜ってやつなんだな。

「…あ、あの、独歩さん。

今日は私に御礼がしたいと聞きましたが……」

声をかけると、ハッとしたように我にかえる独歩さんは、サーーーッと青ざめた。

「ど、どうかしましたか？」

まるで茄子のような色になった彼に問いかけると、ぶるぶるとさらに肩を震わした。

独歩「じ、実は、大変言いにくいのですが、

お、御礼の品を会社に置いてきてシマッテ……」

独歩さんはごにょごにょと、指をいじりながら目を泳がせた。

「あ、あぁ～～…(汗)」
たしかに、彼の手元には会社のバックしか見当たらない。本気で忘れたようだ。
私は気を遣わせないように、察して笑った。

独歩「すすすすいません、すいませんすいませんすいません！！！」

壊れたラジオのように、謝罪の言葉を繰り返す彼をなだめると、彼はガシッと肩につかみかかる。
「！？」

独歩「それ、で、あの、代わりとはいってはなんですが……」

独歩「Aさんが欲しいものを、か、買いにい、行きませんか…？」

そういった彼の笑顔は、緊張でひきつっていた。