事勿れ主義【イルミ】 (ページ13)

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61 イルミside ページ13

Aはかなり疲れていたのかピクリとも動かず、彼女の小さい寝息だけが部屋に響いている。
ベッドにゆっくり起こさないように寝かせ、布団をかぶせる。
彼女の無防備な姿をみて、俺が守らなければいけないという勝手な義務感と、彼女は自分とは住む世界が違うということを理解しざるを得ない状況に胸が苦しくなる。
部屋についているキッチンを利用して紅茶を作り、ソファに腰掛ける。
数日前、母さんに呼ばれた。
｢Aをキルアの嫁にしようと思っているの｣
母の言葉を聞いた途端、頭を強く殴られたような感覚が俺を襲う。
Aがこの家の嫁として迎えられるのは予想していた。
でも、相手がキルアとは。
｢イルミ、この家の後継者はキルアよ｣
母さんは俺の胸ぐらをつかみ顔を近づける。
｢あなたじゃないの｣
わかっている。
乱暴に俺を突き放すと母さんは窓から外を眺める。
｢今日は雨ね｣なんて呟きながら。
｢イルミ、あなたの婚約者はもう決まっているじゃない｣
｢初耳なんだけど｣
母さんは口に扇子を当て｢あら、伝えてなかったかしら｣と白々しい態度をとる。
｢Aの治癒能力は外部に渡してはいけない。わかるでしょ？｣
確かに彼女の力の利便性や危険性もわかっている。
でも、彼女にこの世界で生きていく覚悟や強さはあるのだろうか？
Aにはこんな暗い世界は似合わない。
彼女と初めて出会った時、無理矢理でも外に連れていくべきだったのかもしれない。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている彼女の頭を撫でる。
｢大丈夫、俺がちゃんと守るから｣
きっと聞こえてないけど、これはこちら側へ、あの家に連れて行ってしまった俺が出来る彼女への償いだ。