【スタレ】『開拓日記』 (ページ11)

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「…さて。君と此処でまったり話していたいのは山々なんだけど、この後用があってね」

腕時計を確認すれば、次の予定まであと数刻といったところだった。ソファから立ち上がり、懐からサングラスを取り出して掛ける。

『そうなんだ。なら、また今度』

ソファに座ったまま、他人事のように僕の動きを見つめる彼女に、クルリと向き直る。

「おや。もう賭けの内容を忘れたのかい?」

きょとん、とした顔で僕を見つめる彼女の前で、パチン、と指を鳴らす。

「さぁ、手を開いて」

彼女の視線が、彼女自身の手元に落ちる。先程賭けに使ったコインが自身の右手に収まっていることに気付いた彼女は、静かに驚いて、視線を僕の方に勢いよく向けた。

『さっき何も言わなかったから、てっきり賭けの報酬は来るべき時に切り札として取っておくのかと思ってたんだけど』

「うんうん。僕のこと、少しは理解してくれているようで嬉しいなぁ。けど惜しかったね、マイフレンド。…その"来るべき時"が今、なんだ」

ニコ、と作り笑いを浮かべれば、彼女から溜め息が落とされる。

『あー…なるほど。最初からそのつもりだったんだ…』

無言で微笑んで、ソファに座ったままでいる彼女に右手を差し出す。彼女は一瞬躊躇ってから、そっと僕の掌の上に手を置いた。

無意識に近付いてきたり、かと思えば警戒してきたり。まぁ僕の言動の所為なんだろうけど、なんだか気紛れな猫みたいだな、とふと思う。

彼女の手を軽く握って、ゆっくりと上に引き上げる。ソファに体を預け過ぎていたせいか、立ち上がった彼女の足元が覚束無い。それを見兼ねて、支えてあげようと空いていた方の手を彼女の腰に添えた。

「大丈夫かい」

声を掛ければ、彼女の肩がビクリと揺れる。

以前ゲームと称して彼女に近付いた時のトラウマがあるのかもしれない。

冷静に判断して、彼女から手を離す。人一人分の距離を置き、彼女の顔色が青ざめてはいないのを確認して、ホッと胸を撫で下ろした。

…どうやら、杞憂だったらしい。

「そうそう。君に渡したコインは僕の遊びに付き合わせてしまったお詫びに受け取ってくれ」

『…アベンチュリンの思惑はどうであれ、合意の上でやったから別に良いのに』

「気に入らないなら、信用ポイントでも…」

『それは要らない』

キッパリと断られ、思わずハハ、と笑い声を上げる。

「君は変わらないね」

『貴方もね』

そう言うと、彼女は呆れた様に笑った。