第1話-5 ページ7
「ねぇ、おさげちゃん。俺との勝負を受けないって事はさ…俺に勝てる自信が無いって事かな」
嘲笑を含んだ冷たい声が、教室に落ちる。普段の陽人が見せる事の無いその表情と言葉を目の当たりにして、美月は"皆に人気者"な陽人の裏の顔を垣間見た気がした。
「期末だもんね。頭の良いおさげちゃんでも、俺のいつもの順位ぐらい成績下がっちゃうかもだし、俺との賭けに乗らないのも無理は無い、か」
目を細めて、敢えて分かる様に、ニコリと作り笑いを浮かべる陽人。明らかに煽っているその態度に、身体が芯から熱くなり、声を荒げた。
『あんまり舐めないでくれる。私が、霧原になんか負けるわけないんだから。現に、一度も貴方に点数を抜かされた事なんて無いもの。今回だって同じよ。…結果が分かりきっているのに、態々勝負する意味はあるの?』
溜まっていた鬱憤を一気に吐き出す様に、美月は陽人を鼻で嗤う。対する陽人は、落ち着き払った声で答えた。
「そうだねぇ…。でも言うだろ、やってみるまで分からない、ってさ。それに、俺にどんな魂胆があったとしても、勝利を確信しているのなら、尚更受けた方がおさげちゃんにとって得なんじゃないかな。だって、この勝負を受ける事で君は、いつも通り勉強を頑張れるし、結果的に嫌いな奴ともおさらば出来る…一石二鳥の条件なんだから」
"嫌いな奴とおさらば出来る"そう言った瞬間の、陽人の表情は笑みが消え、どこか寂しそうに見えた。だが、彼の一瞬剥がれた笑顔の仮面は、すぐに戻ってきてしまった。
彼は誤解している、と美月は思った。確かに美月は、陽人を"嫌な奴"だと思っているし、"好きではない"が、"嫌い"だとは感じていなかった。
彼が完全なる"悪"だとは思っていなかったし、人それぞれ、性格や生き方が違っていて構わないとさえ思っていた。勿論、道徳や倫理に反する行いは余り許容は出来ないとは言え、美月は陽人に対して、ただ"苦手意識を持っている"だけだった。
『"どんな魂胆があったとしても"って、何か企んでいるって事を隠す気は無いのね…』
美月が尋ねれば、彼は平然と頷いた。
「何か企んでる、ってのはバレても良いと思ってね。それに、企みの内容はバレちゃ意味無いけど、企んでるか否かを隠す必要性はあまり感じないから」
『……まぁ、そうでしょうね』
彼の発言は尤もだった。彼は美月の返事に軽く頷き返し、改めて尋ねた。
「そういう訳でおさげちゃん、この勝負受ける?」
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時