【オリジナル】おさげちゃんと人誑しくん (ページ6)

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第1話-4 ページ6

「そうだね。君の言い分は尤もだ。…でも、俺は自分の意見を撤回する気は無い。それに、おさげちゃんも俺の意見に従う気は無いだろ?」

教室に入ってから軽薄な態度で話しかけてきた先程までと、表情＿笑顔である事自体には変化が無いのに、どこか陽人の纏う空気が、彼の眼の色が、変わった気がした。

美月は小さく頷いて応える。

『そうよ。分かっているのならこれ以上…』

『口出ししないで』と。そう言いたかったのに、美月が言い切る前に、陽人は人差し指で美月の口を塞いだ。言いたい事を言い切れなかった美月は、不服そうに陽人を睨み上げる。

「ごめんね。まだ話の途中なんだ。…続けさせて?」

彼の言葉は尋ね口調だったが、口を塞がれている以上、美月は頷いて聞き入れるしかなかった。陽人は、美月が頷いたのを確認すると手を離した。そして、先程までと同じように笑みを浮かべたまま口を開く。軽薄そうな雰囲気は相変わらずだったが、そこには確かな意思が宿っていた。

「双方譲れないなら＿自分の意見を曲げたく無いのなら、何かしらの勝負で決着を付けるしか無いと思うんだ。だから、勝負をしようよ＿＿今度の定期テストで。そうだなぁ…、合計点を競うっていうのはどうかな」

突拍子も無い話に、美月は思わず『はぁ?』と溢す。そんな美月の反応を気にも留めず、陽人は少し考え込んでから、言葉を続けた。

「今度の定期テストの合計点数の高かった方が勝ち。俺がおさげちゃんより良い点を取れたら、おさげちゃんは俺の言う事を聞く。逆に、おさげちゃんが俺より良い点を取ったら、俺はもう金輪際おさげちゃんには話しかけない。…って感じでさ。どう?」

陽人は、美月の瞳をじっと見つめて、尋ねる。その黄褐色の瞳に引き込まれる様な錯覚を覚えながら、美月はその瞳から逃げる様に目線を逸らし、眉間を押さえて溜息を吐いた。

『貴方ね…。色々言いたい事はあるけど…、そもそも「どう?」って言われても、何で勝負をする前提で話が進んでるわけ。私は勝負するなんて一言も言ってないんだけど』

馬鹿らしい、と一蹴して、美月は改めて参考書に目を落とす。すると、陽人の手が参考書を覆う様にして伸びて来た。

『ちょっと。…邪魔しないで』

顔を上げれば、先程まで柔らかな笑みを浮かべていた筈の陽人の顔は、跡形も無く消えていた。今は、空虚な目が美月を見つめている。少し恐怖を覚えて、美月は口を結んだ。