第10話-2 ページ45
彼は、ふぅ、と一息吐いて、私から数歩距離を取った。
「怖がるくらいなら軽弾みな言動はしない方が良いよ。それと…今の、俺以外に__いや、俺にも、もう言っちゃダメだからね」
彼はそう言いながら、幼児をあやす様に、軽く窘めるみたいに、美月の頭を優しく撫でた。
駄目、という事はつまり。もう、彼は私の事が好きでは無いと言う事なのだろうか。
…キスを強請った事で引かれてしまったのだろうか。
今にも踵を返そうとする彼を、思わず腕を掴んで引き寄せる。だが、何を言えば良いか分からず、口を結ぶことしかできなかった。
「おさげちゃん…?」
いつもとは違う様子の美月を訝しむように、彼が見つめる。けれども、普段甘い台詞を吐いてくれる彼の口から、言葉が続くことは無い。
最初の「好き」は、私が言わせただけで、彼の本心ではもう無いのかもしれない。
…いつかそんな日が来るって、分かってたはずだったのに。
妙に、胸が、心が、キリキリと痛む。
あぁ、どうしてこういう時ばかり、女々しい気持ちになってしまうのか。
焦りと、不安で、頭が真っ白になってしまう。ギュウ、と強く彼の腕を握りしめてしまったようで、彼は短く声を上げた。
「ちょ、おさげちゃん…痛いって。…あー…、えっと、ごめん、さっきのは…」
何を思い至ったのか、突然謝る彼に、冷や汗が頬を伝う。彼の言葉を聞きたく無くて、失望したく無くて、話を遮るように、先程彼がキスを落とした手の甲を自分の口元へと近付けた。ちゅ、と微かなリップ音だけがその場を支配する。彼を見遣れば、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で此方を見ていた。
…こんな事されるなんて、露ほども思っていなかったんだろうなぁ。
もう好きじゃ無くなった奴に、今更間接キスされるなんて…イヤ、だよね。
弄ばれたお返しに、細やかな嫌がらせを。
してやった、という満足感と、だから何だ、という虚しさが胸を駆け巡る。
思わず自嘲気味に笑うと、彼は眉間に皺を寄せた。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時