【オリジナル】おさげちゃんと人誑しくん (ページ44)

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第10話-1 ページ44

放課後。

廊下に人が居ないのを確認して、教室を出る。向かう先は、屋上だった。足音が聞こえないのを確認してから、階段を駆け上がる。屋上に続く錆びれた扉を開ければ、沈みかけた夕日が辺り一面を照らしていた。

「…ん、おさげちゃん。お疲れ様」

霧原は、扉のすぐそばの壁に背を預ける様にして立っていた。

それもそのはず。放課後屋上に来て、と事前に連絡を入れておいたのだから。

「おさげちゃんから連絡くれるなんて珍しーね。…何かあった?」

扉をちゃんと閉めてから、屋上の中央へと足を進めた。彼は美月の背を眺めながら、その後を追う。少し扉から距離をとったところで、彼の方へと振り返った。

『私の事、本当に好き?』

「うん?好きだよ」

突然の事なのに間髪入れずに返してくるあたり、言い慣れているのかな、と少しモヤッとした気持ちが湧き上がる。そんな気持ちを頭を振って振り払って、彼を見つめた。

『なら…キス、して』

「えっと、おさげちゃん?話が見えてこないんだけど…」

『…良いから。キスして』

「…誰に何言われたのか分からないけど、一旦落ち着こう?おさげちゃん、今、絶対に冷静じゃな…ッと、危ない」

唇を重ねようと顔を近づけるも、掌でガードされてしまう。

『退けて』

私が頑なに躙り寄ろうとすると、彼は大きく溜息を吐いた。そうして、瞬きを一つした後、冷えた瞳で此方を見据えた。

「…そのまま大人しくして」

頬まで包み込むように、彼の大きな掌で口元を塞がれる。そのまま壁際に追いやられ、逃げ場が無くなってしまった。美月を見つめる彼の目には光が無く、いつもと違って怖い印象を受ける。塞がれた口から、何とか声を出そうとするも唸り声しか出せず、無駄な足掻きだとでも言う様に、彼は冷ややかに嗤った。

何も発さない彼が＿彼の顔が、美月の顔の間近に迫る。

何をされるのだろうか、と身構えて、ギュ、と目を瞑ると、「ちゅ」と可愛らしいリップ音が響いた。驚いて目を開けると、彼の閉じられた瞼が間近にあり、長く綺麗で整った睫毛が夕日に照らされて輝いて見えた。その姿に見惚れていると、彼がゆっくりと目を開け、射るような鋭い視線を向けられた。

手のひらが唇に触れて、柔く沈んだ感触がまだ残っている。彼の手が間に無ければ、唇は重なっていただろう。それはキス一歩手前と言っても過言では無い状況だった。