第1話-5 ページ41
二人並んで、教室を後にする。私たちの通う学校は、下駄箱が存在せず、校内を土足で歩けるという開放的な学校である為、校門を出るまで手を離す機会が無かった。
並んで歩く帰り道、沈黙が続く。いつもはお喋りな彼の口がずっと閉じているのが原因だった。彼が話さないのなら私が、と口を開けかけて、さしてまともな話題を思い付かずにすぐ閉じる、という動作を繰り返しているうちに、彼がクスリと笑った。
「おさげちゃん、俺の事意識してくれてるんだ?」
横に並んで歩いているとは言え、彼の身長が高いので、少し顔を上げないと彼の表情は見えない。だが、見なくても、憎たらしい顔をしているのは声で分かった。
『こんなの、意識しない訳無いでしょ…。そもそも男子とまともに手握った事ないし…』
「…へぇ?」
思わず本音が口から転がり落ちて、慌てて空いている手で口を塞ぐ。時既に遅し、ではあったが。
「おさげちゃん、男子と手繋いだ事ないの?」
『…経験少なくて悪かったね。アンタと違って、そういうのに無縁だったもんで』
「ううん、むしろ嬉しいよ。おさげちゃんのハジメテ、俺が頂けた訳だし」
『ハジメテ、では無いけど…』
「ふーん?おさげちゃん、彼氏居たことあるんだ」
『…それ本気で言ってる?』
不思議そうに首を傾げる彼。悪意を持った発言ではないと知り、重い口を開く。
『………ない』
「え?」
『だから、居たこと…ない』
「ホント?」
『こんなので嘘吐いても何の得にもならないじゃん…』
「そっか。良かった」
『喧嘩売ってる?』
「違うって。…おさげちゃん可愛いから、彼氏の一人や二人居たことあると思ってて。誰のものにもなってないって知って安心した、っていうか」
『すぐそういうこと言う…』
彼の方を見上げると、柔和な笑みを浮かべていた。ドキリ、と一際大きく胸が脈打つ。駅前の交差点に差し掛かって、信号を待つ間、再び沈黙が訪れた。今しかない、と口を開いた。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時