第1話-3 ページ39
「じゃあね、おさげちゃん」
彼は、もう此方には目もくれず、何事もなかったかの様に手を振って去って行こうとしていた。それが頭にきて、思わず座席から立ち上がり、駆け寄って、彼のシャツの裾を引っ張って引き止めてしまった。
『待って』
「……」
声を掛けても振り返ろうとしない彼に、苛立ちが募る。続く言葉に悩んでいると、教室に西日が差し込んできた。
『霧原、どうせもう帰るんでしょ。…私も帰る』
「え」
私の発言に驚いた彼が振り返る。
彼の顔と目が少し赤く見えるのは、夕焼けのせいだろう。
『え、って何。別に一緒に帰るぐらいどうって事ないでしょう』
彼が、女の子を連れ立って歩いていたり、一緒に帰ったりしている様子は何度も目にしたことがあった。
だから私と帰るのだって、訳無いでしょ。
眉を下げて困った表情を浮かべる彼に、苛立ちが募る。
「…おさげちゃん、さっきの俺の話聞いてた?」
『さっきの、って…霧原が私を好きだって話のこと?聞いてたよ、ちゃんと。聞こえてない訳ないでしょ』
「いや…なら良いけど。…いや、良いのか…?だからこそ、こういうのは…」
戸惑った様子でボソボソと一人呟く彼を尻目に、机に広げていた荷物を片し、鞄に詰め込む。彼は、荷物を急いでまとめるAを見て、観念したのか「そんなに慌てなくても待ってるから、急がなくて良いよ」と声を掛けてきた。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時