第1話-2 ページ38
「何で、って…、おさげちゃんの事が好きだから。好きな子と付き合いたい…恋人同士になりたい、って思うのは普通でしょ」
少し色素の薄い、ハネ気味の茶色の髪の毛が、開いた窓から吹きつける風を受けて靡く。柔らかな目元に、整った鼻、艶やかな唇。年齢を問わず女性に声を掛けられ、遠くからでも黄色い歓声を上げられるほどの、端正な顔立ち。そして、そんな美貌に加え、まるでモデルの様なしなやかなスタイルも特徴的で、シャツ越しにでも引き締まった身体をしている事が窺える。そして、その顔や体型の良さもさることながら、彼は運動神経や勉強にも長けていた。社交性もあって、クラスの、いやもっと言えば学校の人気者。
だが、同じくらい悪い噂でも有名だった。「何人もの女性を取っ替え引っ替えしている」だとか、「泣かされた女は数知らず」だとか。どこまで本当かは当人しか知らぬところだろうが、とにかく噂話が絶えなかった。火の無いところに煙は立たない。真偽は定かでは無いが、何かしら欠点を抱えているのは間違いないのだろう。ただ、「そんなところもいい」「弄ばれたい」と言っている女子も居るのだそうだ。
____そして、そんな彼が、私の事を好き、と告げて来た。
正直言って、よく分からない。
勉学に関しては使える頭も、今回ばかりは上手く働かないようで。ネガティブな妄想と感情が脳と心を埋め尽くすばかりだった。
罰ゲームにしてはタチが悪いし、私を巻き込まないでほしい。
『…そういう冗談、私好きじゃない』
語気を強めて、彼を睨みつける。彼は怯むことなく視線を合わせて、口角を上げた。
「うん、知ってる。だから、冗談なんかじゃないよ。おさげちゃんが信じてくれるまで、何度だって言ってあげる。…俺は、君が好きだ」
揺るぎない黄褐色の双眸が、此方を見据える。その瞳に飲まれてしまいそうだった。自分からは逸らしたくなくて、彼を睨み続けた。
「返事はしなくて良いよ。…ただ言っておきたかっただけだから」
彼はそう言って目を細めると、教壇から降りて、入ってきた扉に向かっていった。言って満足したのか、振り返ろうともしない背を見て、形容し難い怒りが湧き上がる。
はぁ？……何それ、言い逃げ？
ただ、告白するだけで、終わり？
返事なんて最初から期待していない、とその背が語っていた。
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作者名：シメ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時：2023年8月20日 13時
