【オリジナル】おさげちゃんと人誑しくん (ページ34)

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第3話-18 ページ34

なんとか落ち着きを取り戻した胸を摩る。

美月はトイレの鏡で身嗜みを整えてから、陽人が待つベンチへと向かった。

美月の視界に、彼の姿が映る。陽人は、変わらず同じベンチで座って待ってくれていた。携帯で何かを眺めていたようだったが、美月の足音に気付いて、顔を上げた。

『…霧原、待たせてごめん』

「謝らなくても平気だよ。…それより、もう大丈夫そう?」

『う、うん。大丈夫』

自分に言い聞かせるようにそう言えば、陽人は「それなら良かった」と言いながら、ベンチから立ち上がった。

「…そろそろ17時を回るけど、おさげちゃんの家は門限とかある?」

チラ、と陽人が目線を移した先には時計があり、後数分で17時というところだった。

『門限は無いけど…あんまり遅過ぎると心配はされる、かな…』

「そっか、分かった。ところで、今まで俺の行きたい所にばっか連れてっちゃってたけど、おさげちゃんが行きたいところはある?もちろんこのショッピングモール内に限らず、ね」

そう言われて、美月は考え込んだ。1人でこのショッピングモールに訪れる際に、よく行っていた場所がある。ただ、必ずしもこのショッピングモールで行かなくてはならない場所か、と問われれば違った。

『…どんな場所でも良いの?』

「おさげちゃんが行きたいのなら、どこでも付き合うよ」

そう言って陽人は美月に微笑む。彼のその柔らかい表情に、美月は胸がきゅぅ、と甘く締め付けられる。彼の言動を意識し出したら止まらないから、と慌てて頭を振る。

そんな美月を見て、不思議そうに首を傾げる陽人を見ながら、美月は覚悟を決めて口を開いた。

『…1箇所だけ行きたいところがある』

美月はそう言って歩き出した。その後ろを陽人がついて来る。夕方の時間帯だからか少し人の減った通路は歩きやすくなっていたが、陽人は相変わらず人目を引いていた。

横を通り過ぎれば、「イケメン」だの「かっこいい」だのと女性だけでなく男性からも騒ぎ立てられ、果てには「彼女居るのかな」と囁かれる始末。

側に居ても、他の人には"彼女"に見えないんだな…私は。

…別に、"そう"思われたいわけでは無いけれど。

チクリ、と胸が痛む。

痛みの正体が何なのか、美月には未だ分からなかった。