第3話-16 ページ31
「ところで、良い買い物はできた?」
そう尋ねながら、陽人は美月が手にしていた紙袋に視線を遣った。先程のアクセサリーショップのロゴのついた紙袋。中には勿論美月が悩みに悩み抜いて選び買ったアクセサリーが入っている。
『うん。…霧原に、気に入ってもらえるか分からないけど』
「どんなものであれ、おさげちゃんから贈り物を貰えるだけで俺は嬉しいよ」
陽人のそのセリフと真っ直ぐな視線に耐えられなくなって、美月は紙袋を彼の胸元に押し付け、顔を逸らした。
陽人はそんな美月を横目に渡された紙袋を受け取って、中身を覗いた。中には黒く、少し細長い形をした箱があった。その箱を取り出して開けてみれば、そこには銀と黒と青がねじれるようにして組み合わさった三連リングがシルバーチェーンに付いたネックレスが入っていた。
「ネックレスに、指輪か。…これはちょっと予想外だったな」
聞こえてきた声は喜びよりも戸惑いや困惑に近い声音だった。
「貰えるだけで嬉しい」って言ったくせに。
チクリ、と胸が痛む。彼の顔を見たくなくて、美月は俯いたまま口を開いた。
『……嫌なら』
「ううん、嬉しいよ」
美月の言葉を遮るように、陽人は言い切った。彼はネックレスを手に取って、後ろ手で自分の首に掛けた。そうして指輪部分に触れ、それを見つめながら、美月に声をかけた。
「色とか、今日の俺の装いに合わせてくれてる。俺のこと想って選んでくれたんだね。…ありがとう」
美月の下がった頭に、陽人の掌がポンと乗っけられた。そのまま優しく頭を撫でられる。美月は、そんな行動一つに、痛んでいたはずの心が、じわじわと治されていく様な、包まれていく様なそんな温かさを感じた。
「ね、おさげちゃん。顔を上げて?…俺からも、渡したい物があるんだ」
美月が言われた通り顔を上げると、陽人はどこから取り出したのか、小さな箱を掌の上に乗せていて、その箱を美月に差し出した。開けてみて、と促すように彼が微笑む。
美月がおずおずと受け取ってその箱を開ければ、中にはイヤリングが入っていた。純度の高いペリドットのような澄んだ緑色をした四つ葉のクローバーに、リボンのような装飾がいくつか付いている。
『これ、私に…?』
驚いた顔をする美月に、陽人は嬉しそうに小さく頷く。
「おさげちゃんが俺への贈り物を考えてくれている時に、俺は俺でおさげちゃんへの贈り物を選んで買ってたんだ」
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作者名：シメ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時：2023年8月20日 13時
