第3話-12 ページ27
『映画館でも払ってもらったのに…』
友達と割り勘する経験や知り合いと食事をして個別支払いする経験は一応ある美月であったが、奢られるという経験はした事が無かった為、どうにも慣れなかった。
美月が不服そうにしていると、陽人が宥める様に軽く頭を撫でた。
「気にしなくて良いって。俺が連れて来たかったんだし。有希さんにはお世話になってる…いや、なってたから。ちょっと多めに出しておきたくて」
だとしても、1万円はかなり多いのでは無いだろうか。
高校生とは言え、私達の学校はバイトが禁止されている。月にお小遣いを貰えていたとしても、同学年の話を聞く限り、5000円台が基本と言える。だというのに、彼は1万円もの大金を平然と払ったのだ。誰だって驚く。
『……でも』
食い下がっていると、陽人が少し唸ってから「じゃあ」と提案を持ちかけて来た。
「おさげちゃんが、どーしても"奢られ続けていること"が気になるんなら、次に行く店で何か1つ買って、それを俺にプレゼントしてくれない?」
『…プレゼント?霧原に?』
「そう、俺に。形が残るものが欲しいんだ。…おさげちゃんとの初デート記念に、さ」
“初”デートと聞いて、美月はドキリとした。「初」ということは「次」があることを暗に示していると思ったから。その「次」に期待をしている自分自身がいることに気づいて、美月は自分自身の感情が理解できず、困惑した。そのため、陽人に対する返答が遅れた。
『………分かった』
小さく呟けば、陽人は嬉しそうに微笑んだ。その表情は、いつもクラスメイトに見せているような、取ってつけたような笑みではなく、心からの笑顔のように見えて、思わず見惚れてしまいそうだった。
『で、でも、どこに行くつもり?…というか、そもそも行き先はもう決まっているの?』
「うん、決めてるよ」
陽人はそう言うと、美月の手を強く握り直して歩き出した。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時