第3話-11 ページ26
『ごちそうさまでした』
「綺麗に食べたね。おさげちゃんのお気に召したようで何より」
1本の麺も残さず平らげた綺麗な皿を見て、陽人が呟く。
一足先に食べ終えていた陽人に、終始熱い視線を送られていたので、『早く食べきってこの視線から逃れたい』と途中から味など分からなくなっていたが、美味しいから完食も苦では無かったのだとは思う。
彼は自分の皿と美月の皿、飲み終えた2人のグラスを重ね合わせた。そして、席から立ち上がって、厨房の方を覗いた。厨房では未だ有希が何か作業をしている様だった。
「有希さん、ここに代金置いとくね」
「おっけー。ありがとね」
厨房の方にも聞こえる様に大きめのそ声でそう言って、陽人はカウンターに一万円をおいた。余程厨房での作業が忙しいのか、了解の意を伝える有希の声はかなり遠かったし、顔を見せることも無かった。
カウンターに置かれたお札を眺めながら、ちゃんとしたお会計も無しに客を帰して良いモノなのだろうか、と思う。だが、すぐ前に聞いた霧原の言葉を思い出して、あぁ違うか、と考えを改めた。
霧原と有希さんには「家族」同然の繋がりがあるんだった。霧原を信用してるから、有希さんは作業を中断することなく動けているのだろう。
その事実を思い知って、少し、ほんの少しだけ、胸にモヤモヤとした気持ちが生まれた。
「おさげちゃん、行こう?」
いつの間にか目の前には手を差し伸べる彼が居た。ハ、と我に返った美月は慌てて財布を取り出そうと鞄を探る。だが、その手は制止させられた。いや、正確には、その手を引かれて店の出入り口まで連れて行かれてしまった。
『まだ私、払ってないんだけど…』
「…ん?俺の出したので足りてるから大丈夫だよ」
彼は、さも当然の様に言ってのける。このスマートさを学校でも発揮して欲しいモノなのだけれど。何故、学校になると私の邪魔をするしか能が無くなるのだろう。そう疑問を抱いても、特にその疑問が解消できる答えは思いつかなかった。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時