第3話-9 ページ24
『……なんで』
私と恋人になりたかったの?
言いたくても続く言葉は出なかった。だって、問えたとして、彼からちゃんとした回答が得られる保証など無かったから。得られた回答が嘘か本当か分からなければ、ただ彼に翻弄されるだけだ。それだけは避けたかった。何度も彼の掌の上で転がされたくはない。
私は、彼を知らない。家族構成、趣味、特技でさえも。せめて彼を観察して、嘘を吐いてるか、吐いていないのか。それを見極められるようにならないと。今のままじゃ、またあの勝負の二の舞になる。
「…どうかした?」
美月の口から続く言葉を待っている陽人が、不思議そうに見つめてくる。美月は
「お待たせ」
ふと声のする方に視線を遣ると、有希が厨房から注文した料理をお盆に乗せて、運んできたところだった。慣れた手つきで、2人の目の前に料理を置いていき、そこに飲み物を添えてくれた。
バジルの良い香りが鼻を擽る。それは、陽人の頼んだジェノベーゼのパスタから漂ってきていた。美月はゴクリと唾を飲み込んで、自分の目の前にあるパスタと対峙する。そこには、薄らと湯気が立ち上る、見るからに美味しそうな明太子のクリームパスタがあった。
「ごゆっくりどうぞ」
有希は2人に向かって一礼してから、厨房へと戻っていく。美月が陽人に視線を移せば、陽人は「いただきます」と手を合わせて、フォークを手に取った。陽人が美月に目配せをして「食べよう」と促してくるので、美月も続く様に『いただきます』と言ってフォークを手に取った。
パスタを食べやすくフォークに一巻きにして、口に含む。フォークを引き抜いて咀嚼すれば、明太子の旨味とクリームソースのコクが絶妙に混ざり合っていて、口いっぱいに広がっていった。パスタは程よくアルデンテで、食感が良い。思わず口元が緩んだ。
「どう?…って聞くまでもないかな」
美月の嬉しそうな顔を見て、陽人が呟く。隠す意味も無いので、素直に『美味しい』と答えると、彼は「それは良かった」と言って笑った。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時