【オリジナル】おさげちゃんと人誑しくん (ページ23)

今日:19 hit、昨日:4 hit、合計:1,100 hit

第3話-8 ページ23

「あぁ、そういえば…!出すの遅れてごめんね!」

有希はそう言いながら、カウンター越しに水の入ったグラスと今日のオススメが載ったメニュー表を差し出した。メニュー表には実物と思われる写真が商品毎に付いていて、その写真だけで食欲がそそられるほど美味しそうな見た目をしていた。

『…じゃあ、コレで。それと紅茶も』

美月がメニュー表に載っているパスタを指で示しながら注文した。

「オッケー。紅茶にミルクと砂糖は付ける?」

『お願いします』

「了解。…で、陽人はどうする?昔と同じ?」

有希が陽人の方に目を遣れば、彼はメニュー表から顔を上げ、それをパタリと静かに閉じてカウンターに置いた。

「じゃあ、それで。飲み物は麦茶を」

注文を書き留めてから、メニュー表を回収し、有希は袖をまくった。

「腕によりをかけて作るから、出来るまでちょっと待っててね」

そう言って厨房に消えていく有希を見届けてから、美月は陽人の方を見た。

『…ねぇ』

「ん?どうしたの、おさげちゃん」

『霧原と…その、有希さんって…、どういう関係なの?』

「あぁ…、小学生の時にちょっとお世話になってね。その時からだから、8年くらいの付き合いになるよ。でも、関係か…。明確にこうとは言えないけど…家族に近いかな」

そういう陽人の目はどこか寂しげで、いつもの涼やかなものとは少し違っていた。だが、それも一瞬の事で、すぐにいつもの顔付きに戻った。テーブルに頬杖を付いて、美月をじっと見つめ、彼は口元を緩める。

「それにしても、嬉しいな。俺の事聞いてくれるなんて」

発言の意味が分からず首を傾げれば、彼は答えた。

「おさげちゃん、俺に興味無いんだとばかり思ってたから。でも…いや、だからこそかな。今日、おさげちゃんが可愛い恰好して来てくれた時、俺すっごい嬉しかったんだよ。少しは意識してもらえてるんだなぁ、って」

そう言う彼の声音は穏やかで、その目はとても慈愛に満ちていた。美月は、陽人のその表情を見て、居た堪れない気持ちになった。

普段は勉強の邪魔ばかりしてきて、根無草の様に色んな女性と関係を持って、そればかりか私を煽る様に強制的に恋人にして。

彼は、何を想っているのだろう。

…誰を、想っているのだろう。

彼の本心は彼にしか分からない。今吐いた台詞だって、普段から言い慣れた誑し文句の一つかもしれない。

美月には、分からない事だらけだった。