第3話-5 ページ20
座席に着いて少し経つと、辺りの照明が少ししぼられ、映画の予告映像が流れ始めた。
陽人は席に座ってからも美月の手を離さないでいたが、美月は生まれてこの方恋人がいた事はなく、男性と手を繋ぐ事さえ数える程しか経験が無かった為、画面よりも手の方、もっと言えば陽人自身が気になって仕方が無った。
暫くして漸く映画の予告映像が終わったと思えば、今度は劇場内が完全に暗くなった。
いよいよ映画が始まるらしい。
恋愛ドラマも漫画もアニメもあまり見たことのない美月は、初めて見る恋愛映画に、少なからずワクワクしていた。
映画のストーリーは大まかにこうだった。
主人公の女子高校生が、過去に主人公を助けてくれた男の子と再会し、恋に落ち、両思いになって付き合うも、実はその男の子は余命僅かであった。主人公の未来を思うが故に、男の子は別れを切り出し、音信不通になってしまう。
理由を教えてもらえず別れる事となり、悲しみを通り越して怒りを覚えた主人公が、数年後、その男の子の訃報を聞き、葬式で悲哀の再会を果たす。葬式の帰り、彼の親族から彼の遺品として主人公にあてられた手紙を貰った。そこには、主人公に対する愛情と後悔が綴られていた。それを読んで、主人公は悲しみに暮れるが、次第に彼と過ごした日々を思い出しながら、毎日を過ごしていくという物語だった。
美月は話に引き込まれた。主人公に感情移入し、特に主人公が男の子の葬儀場で彼への想いを吐露しているシーンでは、涙腺が緩みそうになった。だが、思わず鼻を啜ったその時に、陽人に繋がれた左手がほんの少しだけ強く握られた。まるで「俺は此処に居るよ」と安心させるように。そのおかげか、涙は引っ込んでしまった。
美月が陽人の方を見遣れば、彼は映画ではなく、美月の方を向いていた。そうして、笑みを溢して小声で言った。
「大丈夫だよ。俺はおさげちゃんを置いて逝ったりはしないから」
その言葉に、美月はドキリとした。思わず彼の顔を凝視してしまう。だが、彼は、何事も無かったかのように画面の方へと目線を戻していた。
どこかプロポーズのようなその言葉はじわりじわりと美月の脳に焼きついていって、心臓が煩い位に高鳴っていた。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時