★第3話-1 逢瀬 ページ16
こうして、陽人と美月は恋人同士になったのだが、陽人が律儀にも条件を守ってくれた事で、その関係性が誰かに知られるという事は無かった。
それに、彼からの接触回数は増えたものの、それはあくまでスマートフォン上の間接的なやり取りだけで、学校でいつもの勉強妨害以外に特別何かされる事も無かった。
彼は、"恋人"が欲しかったのだろうか。だとしたら、別に美月でなくても引くて数多だろうし、美月が思いがけず遭遇してしまった情事の現場で見たあの中の誰かとそういう関係になれば良い話だろう。だというのに、美月をわざわざ選んだ理由は何なのか。
思わず、嫌な考えが頭を過ぎる。
弄ばれるのだけは、ごめんだ。
そんな事を思っていると、ブブ、とスマホのバイブ音が鳴り、メッセージが画面に表示されていた。それは、ちょうど考えていた陽人からのものであった。
「おさげちゃん、今日の放課後空いてる?」
日程を聞かれたのはこれが初めてだったので、思わず身構える。画面越しだというのにそれを察したのか、彼が続けてメッセージを送ってきた。
「空いてなかったら大丈夫だよ。でも、今週末は空けておいて欲しいな」
なんで、と打とうとして、連投された言葉に美月は絶句した。
「彼氏からのお願い」
彼氏、という言葉に胸がざわつく。この言葉を出されてしまうと、"彼の言う事を聞く"必要があると捉える他無くなる。
美月が『分かった』と簡素に返すと、陽人は「日曜日に、寧楽駅前に、11時。待ち合わせね」とすぐに返信してきた。
寧楽駅は、美月の自宅から学校に行く際の最寄り駅であり、美月は少し遠出をする際にもよく利用していた。だが、それを陽人に教えた事はなかったので、思わず『なんで私の家の最寄り駅を知っているの』と尋ねた。
すると、「前に先生から聞いたんだ。おさげちゃん、前に学校休んでた日があったろう。プリントを届ける為に君の家の住所を教えてもらったんだよ」と返ってきた。
以前、風邪で寝込んでしまっていた時にプリントを届けにきた物好きは彼だったのか。プリントは郵便受けに入れておくよう言って、顔を合わせないまま帰してしまったので、すっかり忘れてしまっていた。
『その節はありがとう』と遅ればせながら感謝を述べると共に、はじめの問いに対する答えを送った。
『週末は良いけど、今日の放課後は無理だから』
送られた内容を見て、陽人は1人「真面目だなぁ」と苦笑するのだった。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時