第2話-6 ページ14
「…あれ、聞こえなかった?もう1度言おうか」
『いや、聞こえてる…けど』
陽人は態とらしく首を傾げて、美月の反応を窺う。美月の脳内は陽人の発言内容が処理出来ずに混乱を極めていたが、何とか言葉を返した。美月の反応を眺めながら、陽人は楽しそうに笑う。
「うん、良かった。じゃあ改めて。…俺と付き合ってよ、おさげちゃん」
彼の"言う事を聞く"必要があるから、了承せざるを得ないのだが、わざわざ告白する為に勝負を持ち掛けてきたのだろうかと、彼の"真意"が分からず、美月はただただ困惑した。
「…返事くらいしてくれてもいいんじゃない?」
『断ったら…?』
「勿論、選択はおさげちゃんの自由だよ。勝負はあくまで口約束だったから、君が約束を守らなくったって構わない。まぁその場合、おさげちゃんは嘘吐きに仲間入りすることになるわけだけど。…それで良いなら」
…それなら、選択肢など無いじゃないか。
美月は、"曲がったことが大嫌い"で、"約束を破る"様な人間ではない事を、勝負前から陽人は「知っている」ハズで。勝負を受けると美月が告げたあの時、わざわざ彼がその事を確認したのは、この時の為だったのだと、今更ながら合点が入った。勝負を受けた時点で、美月には逃げ場など無くなってしまっていたのだ。
「おさげちゃん、どうする?」
『…分かったわ』
美月は、観念した様に頷いた。
「じゃあ、これからよろしくね」
美月は彼の煽りに過剰反応して勝負を受けてしまった過去の自分の行いを後悔した。
日頃から彼の言動に翻弄されてしまっていた時点で、勝負は終わっていたのかもしれない。いやむしろ、"霧原陽人"という存在と出会って、彼を良くも悪くも意識してしまった時点で、駄目だったのだろう。
美月は、彼と図書館で会ったあの日やクラスで彼が執拗に関わってくる日々を思い出しながら、自分の胸に手を当てた。
陽人の不誠実さに対する憤りを抱えていながら、彼がテスト期間を理由に近付いて来なかった時の、胸にポッカリと穴が空いた様な気持ちになったのは、何故なのか。
彼と付き合えば、この気持ちが何なのか…分かったりするのだろうか。
美月は改めて陽人の顔を真っ直ぐ見つめた。彼は不思議そうに見つめ返してくる。軽く息を吸ってから、美月は言葉を口にした。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時