第2話-4 ページ12
「そんなに急かさなくても、ちゃんと見せるから」
陽人は苦笑しながら、美月に紙を手渡した。そこに書かれた点数は、100点ばかりだった。点を落としたのは、現代文・倫理・地理B…といった文系科目だけで、言わずもがな1位を取っている科目が大多数を占めていた。
美月は、左手に持っていた自身の結果表を思わず握り締める。
「俺、頑張ったんだよ。…おさげちゃんに負けないように」
高得点が羅列された結果表をヒョイと取り上げて、陽人はブレザーのポケットに仕舞い込んだ。そして、美月の手から美月の結果表を抜き取ると、くすりと笑った。
「うん、いつもより上がってる。さっすが、おさげちゃん。俺の邪魔が無い1週間の間に勉強が大分捗ったみたいだね。…ただ残念だけど、今回は俺の勝ちだ」
美月は俯いて、悔しさに唇を噛んだ。
今まで、1度だって勉強で霧原に負けた事はなかったのに。いや、そんな負けた事以上に、"1位を取れるほどの実力を隠していた"事が腹立たしく、恨めしかった。今までの自分の"努力"を_苦労を、一瞬で踏み躙られたと美月は思った。
「おさげちゃん、顔上げて」
両頬を捕まえられて、無理矢理、ぐい、と上へ上げられる。強制的に顔を上げさせられたかと思えば、目の前に陽人の顔があった。目を合わせたくなくて、ふい、と横に目線を逸らした。
「あぁ、やっぱり。…悔しがってるおさげちゃんも可愛い」
その声音はいつもと違って少し慾情しているような、熱を帯びているような気がした。そのまま、陽人は美月の耳元に口を寄せ、囁いた。
「ねぇ、おさげちゃん…忘れてないだろ、勝負のこと。俺が勝ったんだから、"約束"…守ってくれるよね」
『っ……』
"約束"。自分から『勝負の取り消しは無しだ』と、条件に加えてしまった。自分で逃げ道を断ってしまったのだ。勝負は無効に出来ない。だから、結果を受け入れ、彼に従う他無い。
美月は、悔しくて逃げ出したい気持ちを必死に抑えて、陽人と目線を合わせると、彼を睨み付けた。
『約束は守るわ。棍を詰めてまで勉強しない。…それで満足でしょ』
敗北時の条件を呑む、と美月が宣言したのに、彼は首を横に振った。
「おさげちゃん、勘違いしてるみたいだね」
そう言う陽人の顔は、ゾッとするほどの美しい笑みを湛えていた。美月は、その笑みに微かに身体を震わせる。陽人はそんな怯える美月を尻目に、会話を続けた。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時