★第1話-1 契機 ページ2
放課後の、静かな雰囲気漂う教室の隅。如月美月は一人、参考書とノートを机に広げ、集中した様子でペンを走らせていた。
やっぱり、誰も居ない教室での勉強は捗るわ。
そう思っていた矢先に、ガラリと教室の扉が開かれ、人が入ってきた。
…ちょうど良い気分になっていた所だったのに。
美月は、内心残念に思いながらも口に出す事無く、顔を上げずに問題を解き進めていった。教室に入ってきたのが誰なのか確認しなかった自分を後悔する事になるとも知らずに。
「おさげちゃん、何してるの?」
それは、嫌というほど聞き慣れた男子の声だった。美月に気付いた彼は、躊躇することなく駆け寄ってくる。顔を上げたく無い気持ちに駆られたが、再度彼が「おさげちゃん」と呼びかけてきたので、美月は参考書から顔を上げざるを得なかった。
「あ。やっと、コッチ向いてくれた。もうそろそろ下校時刻だけど、こんな遅くまで教室で1人何やってたの?」
教室前の黒板近くの壁にかけてある時計の時刻はもう既に下校時刻15分前というところ。教室の窓から見える空は、夕暮れの茜から夜の群青へと色を変えていた。
5分で帰り支度は済ませられるし、まだ出来るかな。…目の前の彼さえ居なければ、だけど。
美月は目の前の男子_霧原陽人を見て、嫌悪感を滲ませた。
『何やってたの…って、見て分かるでしょ』
陽人は前かがみになって、机の上の参考書のページを覗き込む。ふわ、と漂ってきた香りは、女子が好んでつけそうな甘ったるい香水の匂い。更に彼が制服を着崩しているせいで、首元の鬱血痕が見えてしまった。
…また、女子と何かしてたのね。ホント嫌な奴。
美月は、初めて彼と会った日と同じ様に、顔を顰めるのだった。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2023年8月20日 13時