紅桜篇ｰ第七話ｰ ページ13
｢……これは一体どういうおつもりでしょうか｣
船から飛び降りて、隠れたまではいい。
情報も掴んだし、高杉晋助とつまらない会話も出来た。
……しかし、どうにもそちらばかり気にしてしまっていたようで、見回りの人間がいたことを忘れてしまっていたらしい。
気付けば背後をとられ、しまったと思ったのも束の間。
刀を向けられたと思い、咄嗟に身を翻せば、そこに居たのはどういう訳かペンギンであり。
手に持っているのは刀ではなくプラカード。
『誰だ貴様！』と書かれている札を見ていると、どこか緊張感をなくしてしまいそうになる。
……いや、緊張感がなくなるのはペンギン姿のせいか。
私の能力上その中身は丸見えで、正体もなんとなく予想出来る訳だが、それでも何故その格好なのかは分からない。
何かの天人のふり……だろうか。
でもペンギンの天人なんて見たことがない。
そもそもこれはペンギン……？
｢あの……｣
私がとりあえずなにか言おうと口を開けば、こちらの顔が見えたらしいペンギンのプラカードがひっくり返される。
『お前……剣鬼か!?』
懐かしい呼ばれ方をされ、つい反応しかけた。
剣鬼。
確か、薄闇に紛れて敵を正確に斬り倒していく……みたいな内容だったか。
裏方に回っていたうえ、武器が変わっただけだというのに、そんな異名が付いてしまうほど刀を預かった私はそれを大切に扱い、振り回してきたのだろう。
最も、その異名を知っているのは、あの戦争に参加した者の中でもほんのひと握りなのだが。
そしてそれを知っていたということは、このペンギン……。
｢はい、合っていますよ。……貴方は、あの戦争にいらした方ですか？｣
とにかく、今はペンギンの中身に気付いていないフリをしておこう。
頷いて、更に予想通りの人物なのかどうか確かめる為に、こちらからも質問をする。
……と、意外にもすぐに正体がバレるような内容のプラカードを見せられた。
｢『俺は戦争の時にお前に一度助けられた者だ。今は訳あって正体を隠している』……これ、私に教えてしまっていいんですか？｣
私が敵を助けたのは一度きりだ。
そしてあの時助けたのは三人。
……もう誰なのか確定してしまった訳だが、本人は特に気にしていない様子で。
なんなら、正体を隠す
何故そうなったのだろうか……？
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作者名：簪夜叉 | 作成日時：2021年1月6日 0時
