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シャワーの音だけが私の耳に届いた。目が少し熱い気がする。まるで泣いてるみたいに。でも涙なんて出ない。
自問自答をしてはその答えを出さないでいる。
誰かに私の身体を渡してもいいのか。
貴「ルティ、暫く遠くにいて。」
『分かってるよ、おやすみ私のA。』
私はそう言ってシャワーを止めた。
用意されていたバスタオルを巻いて、濡れた髪からポタポタと垂れる水滴が私の後に落ちていた。先輩を忘れる事は出来ない。だからせめて他の事で塗りつぶしていこう。
もう泣かないように、笑顔であの人の元に行けるように。
岸辺「髪、まだ濡れてるぞ。」
貴「やってるうちに乾きますよ。」
岸辺「風邪ひくっつてんだ。」
岸辺さんは手に持っていた真新しいタオルで私の髪をふいてくれた。まるで私が髪を濡らして出てくるのがわかっていたみたいにタオルを持っていたのか少し気になった。
懐かしい、虫鹿さんが頭をふいてくれてるみたい。
貴「なんでタオル持ってんですか。」
岸辺「虫鹿がよく話してたからな。」
貴「そう、ですか。」
私たちはよく同じ家に帰っていた。
私はいつも風呂上がりに髪を濡らしていた。それを先輩は楽しそうに拭いてくれた。私の髪は乾くとフワフワになってそれが可愛いんだと。お風呂上がりが楽しみだったのは先輩のおかげだった。
『ちゃんと髪乾かせよ、風邪ひくぞ。』
『それ言うの先輩と母くらいですよ。』
明日を頑張れたのも全部。
全部を先輩がくれた、私が唯一あげれなかったもの。
それを私は、先輩以外の人に渡すんだ。
岸辺「泣くなよ、抱きにくい。」
貴「面白い冗談ですね、私は泣けないのに。」
泣きそうな顔でもしてたのか。
私は少し気まづくなり自分の顔を覆った。だって私には分からないから。結局あの人に愛してると言ってあげれなかった。これ以上あの人を私の中で縛っては行けない。
これ以上あの人の声を思い出す人生ばかりを生きてはいけない。頭ではわかっていても、どうしても心が追いつかない。
岸辺「お前は、虫鹿以外に抱かれたいのか。」
貴「随分直接的ですね。」
岸辺「いいから答えろ。」
岸辺さんの低い声が聞こえた。
真剣な声色だった。それに答えるように私は自分の巻いていたバスタオルをとって、岸辺さんの方を向いた。
貴「……後悔はない。私は先輩を"足枷"にはしない。」
岸辺「いいな、そういう女は好きだ。」
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楸(プロフ) - ひなたさん» 分析能力が高すぎなコメントありがとうございます！そう言っていただけると本当に嬉しいです。この作品は少し難しく執筆が難航していたので語彙力豊富な感想でとても励みになりました。これからも頑張ります！！ (2023年3月30日 11時) (
レス) id: 22f489ff48 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - すごい…語彙力がなくなるぐらい凄かったです…。綺麗でとても難しい感情もあるのに全体的なまとまりがあって、かつ、主人公ちゃんの物語を上手くはめ込んでいて、読んで行きながらパズルが完成していくかのような満足感が半端なかったです…。めっちゃ応援してます！！ (2023年3月29日 2時) (レス) @page35 id: 44a03850b3 (このIDを非表示/違反報告)
楸(プロフ) - ？？？さん» すいません、涙かっさらってしまいました。涙は罪の悪魔が美味しく食べましたのでご安心を。これからもひっそりと更新頑張ります。 (2023年3月15日 0時) (レス) id: 94f21122e4 (このIDを非表示/違反報告)
楸(プロフ) - ハルヒさん» もうほんとかっこいいですよね、これからも更新頑張ります。応援ありがとうございます！ (2023年3月15日 0時) (レス) id: 94f21122e4 (このIDを非表示/違反報告)
楸(プロフ) - 海獣さん» かなりわかりみ深いです。自分でも書いていて、えぇめっちゃ好ことか思ってます。見てくれてありがとうございます、更新頑張ります！ (2023年3月15日 0時) (レス) id: 94f21122e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：楸 | 作成日時：2022年12月8日 16時
