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中を覗けば、一人の女が優雅に風呂に浸かりながら鼻歌を歌っていた。
それほどまでに実力があるのか。文字通り不審者だ。
八百万「失礼ですが、どなたでしょうか。」
「うーん、そうだねぇ。八百万百ちゃんは将棋は好きかな？私に勝ったら何でもひとつ教えてあげる。」
八百万「…望むところですわ。」
彼女は湯船を出ると同時に身体を乾かし服をまとった。それを一瞬でやってのけるのだから、おそらく"個性"なのだろう。八百万の名前を知っているのも、同じ理由なのだろうか。
その隙に葉隠と芦戸が先生を呼びに行っていた。
麗日「ん？……あぁ！！」
蛙水「どうしたのお茶子ちゃん？」
麗日「あの人、昨日負傷者で病院に運ばれてた人だ。」
けれど、それを八百万に伝える暇は無かった。
彼女と八百万は真剣に駒を指し合っていたからだ。その集中力からは彼女から見える奇妙な雰囲気が見えた。鳥肌が立つほどその"集中力"と素早く駒を指す"判断力"に、彼女たちは目を奪われた。
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湯船に浸かっていたら突然女子たちに囲まれた。
マッパの私は個性で服を着て周囲の"水分量"にアクセスして濡れた髪や身体を乾かした。そして、話術のみに全力を注いで彼女たちと"戦わない道"を選んだ。
てかこの子強いな。ジジイと将棋指してた私より強くね？
貴「八百万ちゃん強いね。」
八百万「そんなことを言いながら、随分意地悪な手ですね。」
貴「八百万ちゃんなら勝てるよ。」
私はすぐに"記録"していたデータを見た。
私の記憶にある彼女の手はAIのように不規則で一定のコマを使う傾向がない。ルール違反もなければ、焦ってコマを指す様子も無かった。
ただ"捨てる"という選択をする時だけ少し判断が鈍る。
貴「八百万ちゃん、"捨てる"事を迷ったら救えないよ。」
八百万「…ヒーローに捨てるなどという選択肢はございませんの。」
貴「そう、ならこれで詰みだよ。」
金を犠牲に彼女は"歩"で詰んだ。
一歩間違えればルール違反で失格になる初心者にはややこしい手だ。だが、何年も何年もジジイと将棋指してきた彼女にとってはルールなど気にせず勘で指す方がいい方に進む。
私はジジイが信じた"歩"で詰めれた。
貴「ありがと、楽しかったよ。」
私はそう言ってお風呂場を出た。
その先にいたのは仁王立ちした"相澤さん"だった。
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作者名：楸 | 作成日時：2022年11月27日 0時
