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「伊野尾さん...」
「あれ、1人?」
「え?」
「だって、笑い声聞こえてたから。」
「あ...」
机には、まだ大量のファイルが散乱している。
「これも?1人で?」
「...はい。あ、大丈夫です。」
「何言ってんの。さっさと済ませよ?」
ファイルを棚に戻し始めた伊野尾さん。
「ありがとうございます。」
2人で、棚に向かう。
「...あんなに、笑えるんだね。」
「へ?」
「外に聞こえちゃうくらい。それも、1人で。」
「あ、すみません...恥ずかしい。」
「ううん、全然。意外だなーって思っただけ。」
「そうですか?」
「うん。俺といる時は、あんなに楽しそうに笑ってくれないから。」
棚にトンッとファイルを置き、私を見る伊野尾さん。
「何がAをそんなに笑顔にできちゃうんだろうね。」
そう言ったあとの表情は、少し寂しそう?に見えた。
「いえ!あの、ちょっとだけ!スマホで面白い動画見ちゃったっていうか...」
言い訳する私に、伊野尾さんがゆっくり近づく。
「今夜、会える?」
そっと、指を絡めてくる。
「へ?え...」
「部屋、行ってもいい?」
私の頭にキスをするかのように口を近づけ、ささやく。
「...はい。あの、」
コンコン!!
誰かがドアをノックする。
何事もなかったかのように、私たちは距離を置く。
「あ、いたいた!!伊野尾さん、何やってるんすかー?あの、課長が探してます!」
「え、ホント?分かった、今行く。」
後輩に連れられ、伊野尾さんは資料室を後にする。
いつの間にか、ダンボールいっぱいのファイルは綺麗に片付けられていた。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時