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「今日は、帰らないでよ。」
そう言うと、岸くんは私のそばに来て、手をそっと握った。
握られた右手を見たあと、岸くんの顔を見る。
真っ直ぐに私を見つめている岸くん。
いつもの、少年のようなあどけない表情はどこにもない。
でも、大人の男の人とは少し違う、清らかで、凛とした瞳。
...こんな岸くんを見るのは初めてだ。
見ていられなくなって、また視線を下に戻す。
思わず、吸い込まれそうになるのを、もう1人の自分がかろうじて止める。
「何言ってんの?」
「だから、Aさんを帰したくない。俺と一緒にいて下さい。」
「...どうしちゃったの?岸くん、何か変だよ?」
「俺をおかしくしているのはAさんです。責任、とってよ。」
どうしよう...
このまま、岸くんと一緒に...
繋いでいる手が、キュッと強く握り締められる。
ダメだ。これ以上、近づけない。
「...岸くん、手、離して、」
「はい。」
途端に自由になる右手。
「へ、」
前を見ると、笑顔の岸くんが立っている。
「ねぇ、びっくりした?」
へへっと笑っている。
「...んもーっっ!!なんなのよ!!!」
安堵感と、驚きと、悔しさと、いろんな感情が溢れかえって、どうしようもなくなって、
目の前の岸くんを、何度もグーパンチする。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時