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(優太Side)
少しだけ、空気が和んだような気がする。
「でも、びっくりしたでしょ?」
「はい。あんなシチュエーション、テレビの中だけのことかと思ってました。」
「うん、私もまさかあんな目に遭うとは思ってもみなかった(笑)。」
無理矢理笑うAさん。
「あの、俺がこんなこと言うのはお節介かもしれないけど、」
「うん。」
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「あの人、本当にAさんのこと大切にしてくれてますか?」
「え、」
「俺だったら、好きな人をあんなに泣かせたりしないです。」
「違うの。それは、誤解。あの時は、本当に酔っ払ってただけ。普段はとっても優しい人なの。穏やかで、声を荒らげることなんて一切なくて、いつも笑ってて。私もあんな伊野尾さん見たの、初めて。」
"いのおさん"って、言うんだね。
Aさんから、男の人の名前を聞くのはこれが初めてだった。
「きっと、何かあったのよ。何もなかったら、あんなになるはずない。...もしかしたら、私のせいなのかもしれないけど。」
そう言うと、Aさんは黙り込んでしまった。
悲しげな横顔。
人知れず恋をして、誰にも言えなくて、あんな辛い思いして、こんなに悲しんで。
...それでも、"いのおさん"をかばうAさん。
本当に、好きなんだね。
俺は、何度も言いそうになった、"あんな人やめて、俺にしなよ"って言葉を飲み込んだ。
「ごめん、何だか湿っぽくなっちゃったね(笑)。帰ろうか?」
ニコッと笑うAさん。
2人で公園を後にする。
「昨日、LINEくれてたんだね。ありがとう。」
「いえ、なんでもないことで。」
「ううん、嬉しかった。気づいてカーテン開けたら、もうお日様出てた。」
Aさんも、眠れなかったんだね。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時