#13 ページ14
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ほとんど勢いだった。
我慢ができなかった私達はあの場所で互いを求め合い、それだけでは足りずに、居酒屋の近くにある相手の家に転がる様に入っては、一晩中互いの身体を貪り合った。
『李依なるせ、』
「初めて見たって顔してるね」
未だ甘い香りが残る部屋のベッドで隣に寝転ぶ相手の顔を見ながら、初めて落ち着いて話をした。
時々伏せ目がちになる彼の睫毛はそこら辺の女性よりも長く、肌も卵のように艶めいている。
むくり、と起き上がった彼の身体…真っ白の肌の上に赤い鬱血痕、言わば欲の印が浮かび上がっていて、思わず目を背けた。
「おい、何処見てんの」
その声と同時に、顎を指で掴まれて強引に相手の方へ向かされる。
そのままゆっくり相手の顔が近付き、思わずぎゅう、と目を瞑った。
「なんで噛まなかった」
私の首元に掛かる重さと触れる髪の擽ったさで目を開けると、彼は私の事を抱き締めるまではいかないものの、控えめに私の服を握り、顔を埋めていた。
そんな彼を引き剥がす様に押し退けては、目の前の甘い果実の腕にガリ、と歯型を残す。
口の中に広がる鉄の味と、彼の低く呻く様な声が耳に届いて 私は完全に離れる様ベッドから降りた。
『番は作らない』
「いってえな、マジで。あらきさんの話と違うじゃん」
『あらきさん?』
脱ぎ捨てた服を拾って着ていた時に、知人の名前が聞こえたものだから思わず彼の方を見てしまう。
すると彼はにやりと笑みを浮かべてはベッドから降り、此方に詰め寄った。
「へえ、あらきさんの事好きなの?」
『好きじゃない。尊敬してるだけ』
「…まああの人を慕う気持ちは分からなくないけど。あらきさんから俺の話聞いてないの?」
あらきさんと交わした会話に思考を巡らす。
ほとんどが勉強の話、学校の話、めいの話……
『あ、』
「思い出した?」
『ヒートの来てないΩ、』
「んはは、ウケんだけど。そんな話してたの、あらきさん」
声を上げて笑った彼の顔はやっぱり綺麗で、私は気付かれない様にチラチラとその顔を見ていた。
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作者名:弥雲 | 作成日時:2021年9月24日 11時