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nbside
『俺は使うよ！』
「…は？」
心底分からない……という顔。
察してほしいだなんて俺の思いは届かず1から100まで丁寧に説明をしなければならないようだ。
『だから！どうせ方向同じなんだから、なかったら、一緒に…帰ればいいだろ………』
恥ずかしさから小さくなっていく語尾。
速さを増す脈拍。熱を帯びていく身体。
足元にズレていく視線。
なんだか全てが大袈裟に感じて、意識させられてしまう。
当の本人は硬直。頭に？を浮かべながらビクともしない。
「……」
『……?』
「ぁ、ま、待って…いま、確認………」
前に抱えたバッグ。中途半端に開けられたくちから覗きながら手を入れて、傘を探す。
チラッと見えた耳はいつもより少し赤くなっているような気がして、
でも勘違いのような気もして……
何を考えているのかを聞くことができたらどんなに簡単か、
どんなに楽なのか、
そんなことに頭をぐるぐると回していると、照の動きがピタリと止まる。
「………」
『…あった？』
「……ない。そういえばふっかか佐久間にかしてたかも、」
『…ふーん』
ザーザーと弱まることのない雨。
さっきまでだったらイラついてしょうがなかったと思う。
だけど今なら、悪くない…かも………
『じゃあ、帰るか』
「…あ、傘、俺持つ」
「俺のが高いから、持ちやすいし入りやすいでしょ？」なんて生意気なんだろう。
だけど今は声を上げる気さえしない。
この気持ちを自覚していない訳じゃない。
知らないフリをしようとしている訳じゃない。
ただ少し素直になれずにいるだけ、
これを機に素直に……
なんてことはできっこないけど、多少いつとも違う行動はできるはず。
許せ神様。
愚かな俺にもどうかチャンスを、タイミングを、きっかけを。
『折りたたみ傘は持っとくもんだな』
「ん、そうだね」
『男2人で、何が悲しくてこんなこと、』
ウソ。
でも、傍から見たらそうだろう。男2人で同じ傘の下。
とんだ笑い話だ。不運だ。
でも、俺は違う。今日は最高にツイている。
世界一の幸せ者だ。
他人になんて分からなくていい。俺だけが知っていればいい。
「俺は、嬉しいけど…」
『はっ、？』
パラパラと弱まった雨のおかげ。
はっきり聞こえたその言葉。
間違いなく、赤く染っている顔。
やっぱり俺はツイているようだ。
眩しく照らされる表情に、少しだけ素直になってもいいのだろうか。
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作者名：Tsukuri | 作成日時：2022年5月12日 20時
