貴方と私の桃源郷【短編集】【中編集】 (ページ24)

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時折、Aが吸うことしかできなくなっていることを確認し、落ち着かせるために背中を撫でる。深呼吸をわざと大きく体を動かしてやることで、Aの呼吸も俺に合わせられるようにした。耳も目も機能していないAにとって、今頼れるのは、俺を体で感じる感覚だけ。

「吸ってー……吐いて…ん、上手。もう1回…」

Aの喉が、ひゅっ、ひゅっと鳴っている。吸いすぎて酷く咳き込んでしまう度に、背中に爪をたてられ、鈍い痛みが走る。それに一瞬顔をしかめた時、テーブルの下をさ迷わせていた手に、確かな感触があった。

「あった…！」

スマホを手に取り、急いでライトをつける。パッと目の前が照らされて、Aの体のラインが見えた。

「Aっ！」

強めに背中を叩いて、俺と目が合うように座らせる。スマホを持ちながら必死で蝋燭、取ると手話をして見せてから、その場を離れようとした。

「いやっ…！！いん、おき！」

「うわっ」

ぐんっと裾を強く引っ張られて、Aの真ん前に逆戻りした。俺らの周りがぼんやり照らされるように、スマホのライトを上に向けてテーブルに置く。これでお互いの言葉で喋れるようになった。

『大丈夫？』

Aが、震える手で必死にこちらに訴えかけてくる。

『怖い。君が見えなくて不安』

『俺はずっとここにいるよ。大丈夫』

Aが躊躇うように目を伏せた後、恐る恐る腕を広げて見つめてきた。

「……ぎゅ」

「んっぐ……」

あまりの可愛さに変な声が漏れてしまうが、仕方ないことだろう。蝋燭を取りに行くのはしばらく後にすることにして、Aの胸に飛び込んだ。ゆっくりゆっくり頭を撫でてやると、いくらか呼吸も落ち着き始めているのが分かる。

それから数分、2人抱き合ったままの姿勢でいた。涙で顔がぐしゃぐしゃのAにティッシュを手渡すと、はにかみながら受け取ってくれる。

『ごめんね。久しぶりに取り乱しちゃった』

『もう大丈夫？』

『暗いのはまだ怖いけど、きんときが見えるから平気』

『一緒に蝋燭取りに行こうか。立てる？』

Aが頷いたのを見て、膝の上に乗っている彼女を先に立たせる。俺も立ち上がって、2人で蝋燭のある棚まで、ずっと手を繋いだままで。箱から蝋燭と、奥の方から蝋燭立てを取り出す。Aにライターを持ってもらって、ゆっくりリビングに戻った。