貴方と私の桃源郷【短編集】【中編集】 (ページ14)

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外傷恐怖症:shk ページ14

今日は、付き合って2週間ほどである、私の彼氏の家にお邪魔する日。素敵にメイクをして、女の子らしいお洋服を着て、鏡の前でくるっとまわる。うん、今日も最高に可愛い。なにせ初めてできた彼氏との、初めてのお家デートだ。ばっちりキメていかないと。そろそろ行くねと連絡をして、今日のために新調したバッグを肩にかけた。

事の発端は、昨日の夜にした電話。最近気になっているイタリアンの話をしたら、ここ数日まともな食事を摂っていないと言われたのだ。食べたものを振り返らせてみたら、出てくるのはインスタントラーメンや、菓子パンの名前ばかり。食べてない日すらあるなんて言われてしまった。

居ても立っても居られなくなった私は、勢いのまま、電話越しにこう伝えた。

「明日、私がご飯作りに行ってもいいかな…！？」

1拍置いた後、彼はえ？と間抜けな声を出した。

「やっ…その、俺の家めっちゃ汚いし…いいよ」

「私がお掃除もする。任せて！」

「う…ほんとに、足の踏み場もないから…」

「そんなことで引かない！お掃除好きだからやらせてよー！」

「ううん…そこまで言うなら…」

半ば無理矢理しゃけの家に行く約束をして、昨日の夜は電話を切った。こんな大事なおうちデートなのに、楽しみすぎてほとんど寝れなかったことだけ悔いが残る。目の下にちょこっとできてしまった、隈を隠すのを忘れずに。そして今にいたるわけだ。

うきうき気分で家を出てすぐ、しゃけから連絡が返ってきた。曰く、冷蔵庫の中身がなさすぎて困っているとのこと。一緒に買い出しから行くよ！と、連れ出す返事を送って、駅に向かって走り出した。

電車に乗って、意味もなく窓の外を眺める。付き合った日にもらった指輪が視界に入って、思わずニヤついてしまった。車内の人は、みんなスマホに夢中で気づかない。ふいにバッグの中のスマホが震えて、私にメッセージの着信を知らせた。

目に入るのは、今日泊まっていく？の文字。

「っ…！？」

危うく電車の中なのに、大声を出してしまうところだった。初めてのお家デートで、お泊まり…！？そんな、そんなどきどきイベント、無事に生きて帰れるだろうか。

それでも嬉しい気持ちが勝り、指は勝手に動いていた。ものすごい勢いで泊まる！と返信し、火照った頬を冷ますように扇ぐ。

あっという間にしゃけの最寄り駅に到着して、はやる気持ちを抑えながら改札を出た。外に出ても、にやにやが収まらなかったのは、ないしょ。