貴方と私の桃源郷【短編集】【中編集】 (ページ11)

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次の日の夜。今日も変わらず配信をして、終わったらAといちゃいちゃする時間。

「Aー。今日は僕が撫でる番ねー」

「ぶるーくのことなでなでするの好きなんだけどな…」

「はい！ここ乗ってください！」

「はいはい」

くすくすと笑いながら、Aは嫌がりもしないで僕の膝の上に座った。今日も苦しまないで眠ってくれたらいいな、という思いを込めながら、Aの頭を撫でる。

嫌な予感がした。なんだか、いつもより薬が効いてくるのが遅い気がする。普段ならとっくにベッドに入る時間を、既に30分以上過ぎていた。

あまり急かすのも可哀想だから、暇を持て余した僕はテレビをつけた。Aを抱えながら、特に意味もなく、深夜番組をぼーっと眺める。Aは、いつもの寝る前の読書に耽っている。と、思っていた。のに。

Aの体が強張っている。心做しか呼吸が浅い。本を持つ手が震えている。

「A…？大丈夫？怖い…？」

「…ひゅ、はっ……」

僕の声が届いていない。喉がヒューヒューと鳴るほど、息を吸うことしかできていない。だんだんと過呼吸を起こしているのが分かってきた。怖い。Aが、苦しそうで。怖いけれど、でも、僕が何とかしてあげないと。今1番怖いのは、Aだ。

ひとまず、Aから本を取り上げ、無理矢理半回転させて、向き合う形でそっと抱きしめた。頭を撫でて、背中をゆっくりと擦りながら、声をかける。

「大丈夫。怖くないよ。ここにいるのは僕だけだよ。怖い人はいないからね」

「い、や…やっ…めて…！…ぱぱ、やだぁ…っ！」

Aは、必死で抵抗しようともがいているけれど、弱々しく僕の胸を押すことしかできていない。そんなAの姿を見ているのが、潰されそうなほどに苦しい。やっぱり、僕じゃ。

でも、それじゃだめだ。

「お父さんじゃないよ。僕だよ。怖いことも痛いこともしないよ。大丈夫、大丈夫だよ」

「うぅ…る、く……ぶるっ、く…！」

「はーいぶるーくでーす。Aの彼氏だよー」

「はっ…ひゅっ…ふーっ……っぐ、ひうっ……」

根気強くあやしていたら、Aの呼吸はだんだん落ち着いてきて、あれだけボロボロ溢れていた涙も、徐々に減っていった。存在を確かめるように、何度も何度も僕の名前を呼んでいる。苦しさと愛おしさで、僕はただ彼女を撫でることしかできなかった。

深呼吸を1つして、彼女は口を開く。