【ヒプマイ】指先の鼓動 (ページ7)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:6,353 hit

#拒否権とはページ7

.

定時ぴったり。仕事も終わってエレベーターで1階まで降りた。今日も疲れた、と伸びをしながら出入口まで歩いていると見慣れた七三分けとスーツと赤い手袋。

｢なんでいるんですかね｣

｢あなたが電話に出ないからでしょう｣

いないなんて嘘だと思いました、と呆れたような顔をする彼氏。なんの用だったんですか、と聞けばそうですね…と少し考え込む。

結局たいした用もなかったんじゃ？

そんな予感が胸を掠めた。それなら早めに帰らないと捕まる。確実に連れてかれる。そう考えて私が口を開こうとした時だった。

｢まぁ、とりあえず出ましょう。外に車は止めてあるので｣

｢…私、ちょっと用事が｣

｢では送っていきますよ、どこまでですか？｣

圧のある笑顔でそう言われて、顔がひきつる。下手に嘘はつくべきじゃないな、とまたひとつ。なんでもないです、と言えば彼は満足したように歩き始めた。

なんだっけ、ミート、いやちがうロールキャベツだっけ？

穂賀と話したことを思い出して、首を傾げる。彼は傍から見たら草食なのだろうか。何も知らない人にはそう見えるのだろうと納得した私がいたけれど、やはりどう見ても肉食である。

例えばそう、しっかり腕を掴んで私を引っ張る、こうやって強引なところとか。

止められた高級車に乗り込んで、車が走り始めてから数分。彼の煙草の匂いが香る。うっすらと開いた車の窓から吹き込む風が冷たく、心地よかった。