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「わーーー！やっぱり海はいいなぁ」
車椅子に乗った崇裕は両手を上げて全身に潮風を浴びながら、伸びをした。
不安定な砂浜で車椅子のタイヤがキシキシと悲鳴を上げるのを聞いて、崇裕は悪戯っぽく笑いながら立ち上がった。
「自分の足で踏み入れんとな」
砂浜に足を持っていかれそうになりながらも歩き出す崇裕は、少し不安そうに足を進めた。
その横で、すかさず手を握ってやると嬉しそうに俺の手を握り返す。
「ほんまはな、誰にも会いたくなかってん。こんな姿なんか、誰にも見せたくなかった」
「……」
ぽつぽつと話し始める崇裕の独白を受け止めるように頷くと、崇裕は零れ始めた言葉を止めることはなかった。
「だから、一番大事なお前も放り出して一人になりたかった」
「……」
「でもな、……どうしようもなく怖かってんなぁ。明日目が覚めんかもしれへんって考えると、めちゃくちゃ望に会いたくなった。毎晩のように夢見た。望の……別れた時の悲しそうな顔が脳裏から消えてくれんかった」
海が波打つのを止めて、俺たち二人の会話を聞いてるみたいに静かやった。
少し薄暗くなってきた辺りには人が消え去っていき、混ざり合う雲と空本来の色が落ち着きを覚え始める。
月は薄く顔を出していた。
「毎日同じことの繰り返しやった。友達が来ても、みんな楽しそうに仕事の話すんねん。俺はどんどん卑屈になっていってさ、なんで俺だけ病気なんって。なかなか治らんのに薬の投与は止められへんし、夜は不安で寝付けもせえへん。苦しくて、辛くて、死んでしまった方がマシなんちゃうかって思ってた。………そんな時やねん、またお前が現れたんは」
「……うん」
「自分でもびっくりするくらいに単純でさ、望を見た時に"ああ、まだ死なれへん"って思ってんな。まだごめんも言っていないのに。それから2ヶ月、望と過ごす時間は楽し過ぎて愛しくて、……あと1ヶ月だけとか…まだ生き足りひんねんな」
「わからんよ、そんな事言んといて」
「ううん、自分で分かる。俺はもう長くない。死ぬのが惜しい。また望がそばにおるのに」
「ちゃうよ、崇裕まだ俺と色んなとこ行くんやろ。次は花火……、花火見たいな」
焦ったように言葉を紡ぐ俺を、崇裕は純粋な目で見つめてた。
そうして一言、「見よな」とだけ言って、俺とは真逆の海に目をやった。
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作者名：ひなこ | 作成日時：2022年12月17日 22時
