桜の花びら二十三枚 ページ24
.
＿＿＿夏といえば。
そんな質問をされた事は生まれてから一度もないけれど、考えてみたくなることはある。
夏といえば、人はどんなものを思い浮かべるのだろう。夏祭り、海、プール、花火。とても楽しそうな単語ばかり。本を読んでいれば季語が使われる事は多々ありそれを目にする度にどんなものだろうかと想像していた。
そして、今日も私は本を読んでいる。
涼しい部屋。此処にはクーラーもあり暑い夏を過ごすには快適なのである。けれど私は電気機器の類よりも自然の風が好きだったりする。夕方になると太陽もその熱さを和らげるため夕方頃は大体窓を開けて過ごしているのだ。
今は昼で流石に風だけでは蒸し暑くて耐えられない為か看護師さんが窓をぴしゃりと閉めクーラーをつけたので暑さ対策はそれに頼っていた。
最近は中也さんが仕事で忙しく中々来れないと連絡があった。看護師さんに頼んで病室に一つ電話を置いてもらったのだ。今まで必要としていなかったそれは今では彼と連絡を取れる手段の一つ。それを無意識に見つめてしまうのも日常の一つとなっていた。
手にしていた本が読み終わりパタンと閉じたのとほぼ同時にコンコンと扉が叩音された。
返事をして訪ねてきた人を見てちょっとがっかりしてしまう私はどうやら余程彼に会いたいらしい。
入ってきた看護師さんは「ちょっといいですか」と私に問う。返事をして用件を聞く。
「実はですね今日怪我で入院してきた患者さんと相部屋にしてもらいたいんですが大丈夫ですか？」
『相部屋ですか？』
「はい。もう一つベットを反対側に置くので少し狭くなりますが、カーテンは取り付けるので。」
『大丈夫ですよ。私は構いません』
そう伝えればぺこりと頭を下げて出て行った看護師を見送る。
相部屋なんて初めてだ。どんな人が来るのだろう。話しやすい人がいいな、なんて思っていれば再び扉が開いたのだった。
『(あ、男の人だったんだ)』
勝手に女性だと思っていたからか驚いた。
彼は車椅子に座っていてにこりと此方に笑顔を向けた。秀麗な顔立ちの男性。
彼の右脚にはグルグル巻きに巻かれた包帯。恐らく酷い骨折でもして入院したんだと思う。
彼は車椅子の車輪を自分で回しながら私のベットの側まで来た。
そして突然、包帯を巻いた彼の手に取られた自分の手を見て私は『へ？』と素っ頓狂な声が出る。
「嗚呼なんて美しく可憐な女性だ！
宜しければ私と心中して頂けないだろうか？」
『………はい？』
沈黙の中、蝉のうるさい大合唱だけがその場に響いたのだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 73人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月華桜(プロフ) - リーザさん» コメント有難う御座います！楽しみにして頂けているなんてとても光栄です！これからも応援よろしくお願いします！ (2019年5月12日 16時) (
レス) id: dc051cccc9 (このIDを非表示/違反報告)
リーザ(プロフ) - コメント失礼致します。いつも月華桜さんの作品楽しみに読ませていただいております。とても綺麗な文章で、更新される度に感動してしまいます。これからも無理のないよう更新頑張ってください。応援しています(´∀｀) ( (2019年5月12日 15時) (レス) id: 0dd43e413c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月華桜 | 作成日時：2019年5月8日 20時
