歪め。【宇髄天元】

愛す ページ49

「私も、幸せだよ。派手に」


『…』


なんと返せば良いのか分からなかった。


俺はずっと自分勝手だった。

何も言わずにぞんざいに愛してみたり、
重たい愛をそのままぶつけてみたり。

泣くか怒るかしてもいいはずなのに

目の前のAは穏やかな笑みを浮かべている。


幸せって、本気で言ってんのかよ。


『…ふっ、はは』

笑いが溢れた。
Aは眉根を寄せる。

『あぁもう、何言ってんだよお前、馬鹿なの？』

笑いが止まらない。

目の前の景色がぐにゃりと歪む。
それは涙のせいだとすぐに気づく。

笑いすぎて涙が出てくる。

次は涙が止まらない。


「…泣いてるの？」


自分でも、笑っているのか泣いているのか分からない。

ただ、こんな状況でこんな呑気なことを言えるAが
馬鹿らしくて、いじらしくて堪らない。


Aの小さな手が背中をさする。

『ったく、変なこと言うからだよ…』

「変なことって何」

『だってよ』

「それで泣いてる人に言われたくない」


馬鹿だなぁ、Aは。
馬鹿だなぁ、俺は。


愛ってなんだったんだろうな。

幸せってなんだろうな。


分からなくても、生きていけるから
それでいいか。








ーーーーー

目を覚ますと、かなり体が冷えていることに気がついた。

さっさと薄着で寝てしまったわけだ。
風邪を引いてしまう。

目と鼻の先で寝息を立てる宇髄くんも薄着だし、
ほとんど布団を被っていないので寒そう。


というか、このベッドは明らかに窮屈だ。

一人暮らししてたから仕方ないんだけど。


『…宇髄くん、私ね』

夢を見たんだ。


あの日の海辺で、宇髄くんに別れを告げて走り去っていく夢。

それから、私はずーっと平穏な人生を送って
どこかの誰かと幸せになって温かい家庭を築いたりしてね。

そういうのが幸せなのかなぁ。


でもね、私やっぱり宇髄くんがいいって思ったよ。

理由は一つも思い浮かばないけど
なんだか特別みたい。


まだぐっすり寝ている宇髄くんの手を握る。

勝手に小指を絡ませたりする。


もうどこにも行かないからね。
離さないでね。

約束ね。


「…ん」

そうこうしているうちに宇髄くんが目を覚ます。

長い睫毛が重たげに持ち上げられた。


『おはよう』

「…おはよ」

嬉しそうに笑うなぁ。


『あのね、宇髄くん』


何から話そうかな。



『王様みたいなベッド、買いに行こうよ』











　 - fin -

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