歪め。【宇髄天元】

愛しうる限り ページ48

ドアの開く音がした。

それから忙しなく足音がして、私の部屋のドアも開く。

「ただいま！」

『おかえり』

笑顔の宇髄くんが帰ってきた。
屈託ない表情にこちらも頬が緩んでしまう。


「いい子にしてたみたいだな」


そう、私は軟禁中とは思えないくらい無抵抗だった。

部屋の片付けをしていれば暇は潰れたし
不便に感じることもほとんどなかった。

不自由がなさすぎて軟禁されていることも忘れてしまうくらいだ。


それに、きっと抵抗してもいいことはない。

確証はないが宇髄くんがずっと見張っている気がしてならないし
きっとここから出ることなんて不可能だ。

逆に大人しくしていれば、少しずつ自由が許されるかもしれない。


私は聞き分けも物分かりも良いから、最善の手はなんとなく分かる。


「結構片付いたな、Aはしっかりしてんなぁ」

機嫌が良さそうだ。少し安心する。
多分、私が大人しくしていたことは把握済みなのだ。





「『いただきます』」

できたてのクリームシチュー。美味しい。
宇髄くんは料理も上手なんだな、器用だな。

手は骨張っているけど、指が長くて綺麗だ。


『…宇髄くんのピアノが聴きたいな』

「ん？」

『なんだっけ、愛の夢第三番』

覚えてんだな、と宇髄くんは顔を綻ばせる。
それから、宙に浮かぶ鍵盤を弾くように指をばらばらと動かした。


「おぉ、愛しうる限り愛せ」

『…何、それ』

「あの曲の元になった歌曲だよ。

おぉ、愛しうる限り愛せ。愛したいだけ愛せ。
いずれ汝が墓の前に立ち嘆く時が来るのだから…みたいな歌詞の」


知らないものはぴんと来ないのだが、

宇髄くんの朗詠はとても綺麗で聞き惚れてしまう。


それと同時に納得もした。

宇髄くんは愛したいだけ愛しているわけだ。

誰でも良かったのかは知らないけれど、
本気で誰かを、愛してみたかったんじゃないかな。




『…ありがとう、私にしてくれて』

「は？」

こんなふうに愛されることが、幸せなのか分からない。
間違ってる気がする。多分、綺麗じゃない。

それでも、積み重なって少しずつ歪んで、

形が変わっても、

それは紛れもない愛なんだろう。


多分私は、愛されて嬉しいんだと思う。


『私も、幸せだよ。派手に』

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